浮気の代償


はじめてだって言ってたのに、火讐くんてすごく積極的・・・。

「そんなこと・・・しなくていいよ」
「オレがしたいんです。させてください」

やわらかく濡れた舌がボクのに絡みつき這い回る。
前にもしてくれたけど、そのときより格段に上手になってる。

「ああん!」

敏感なところをつつかれて腰が跳ねた。
火讐くんはちゅるりとボクのをまるごと吸い込む。
そのまま唇をすぼめてじゅるじゅる下品な音を立ててすすり始めた。
すごい、キモチイイ・・・腰が砕けそう・・・だめ。

「かしゅうくん・・・こんな、こんなに・・・」
「兄貴、気持ちいいですか?」
「出ちゃう、出ちゃうから・・・」
「出していいですよ。むしろください」
「あー・・・」

まぶたの裏でなにかが白く弾けた。
と、一瞬遅れてごくりという音。
うわーーと思ったけど、顔を上げた火讐くんはけろりとして口の周りを拭ってる。

「あまり美味くない」
「あたりまえだよっ」
「でも、好きっす。兄貴の精液・・・」
「かしゅうくん・・・」
「兄貴のだから・・・好き」

あんまりかわいいからぎゅっと抱きしめちゃう。

「不味いの無理して飲んじゃだめだよ」
「兄貴のならいくらでも飲みますよ」
「こんなん飲み物じゃないし。君に無理させるのイヤだよ」
「はい・・・」

おでこにほっぺにキスするとすごくうれしそうにボクの肩に頭をすりつけてきた。
よしよしと髪を撫でてあげる。

「火讐くん、ボクより上手いんだから困っちゃうよ。本かなんか?」
「んー・・・」

あれ?

「そんなとこです」

何気なく聞いたんだけど、反応がおかしい。

「火讐くん」

ボクの肩に顔を埋めている彼を引き剥がす。

「ボクの目を見て」
「なんすか」
「本かなんかだよね?」

まじまじと見つめると、火讐くん、目をそらした。

「そうっす」
「嘘だね!」
「兄貴!」
「よそでやったんじゃ・・・」
「違います!」

ボクだって火讐くんが・・・浮気するなんて思わない。

「じゃあどこで覚えたの」
「ダチに頼んで教えてもらいました」

「どんな風に?」と聞きたかったけど怖くて聞けない。
代わりに「誰に」と尋ねる。

「言えません」

胸がきりきり痛む。

「ばか!さいてい!」

それは自分でも聞いたことのない声だった。
甲高い、ひきつったすごく汚い声。
顔も醜くなっているに違いない。

「やりたいことがあるならボクに試せばいいじゃない!
そんな、練習台なんて、その人がかわいそうだよ!火讐くん大嫌い!」
「兄貴!」

火讐くんの顔が真っ青になった。

「あいつとはやってないですよ・・・」
「やってなきゃいいってもんじゃないよ! 
入れなきゃなにしてもいいなんて、男性的エゴ剥き出し。
ボクそういうの大嫌い!」
「兄貴、許してください」 

火讐くんはガバッと床に這いつくばった。
時代劇のように頭を床に擦りつけ、絞り出すような声を出す。

「オレ、兄貴に大嫌いなんて言われたら生きていけません」
「嘘」
「兄貴が死ねっていったらいつでも死んで見せます」
「ばかなことを。ボクが言わないってわかってそんなこと言ってんでしょ。
ずるいんだから」 

まるで高飛車な女王様キャラのよう。
でも滑稽どころじゃない。

「あにき」

顔を上げて、必死な目つきでボクを見る。

「どうしたら許してくれます?」
「出てって。今は君の顔なんか見たくない」 

しょんぼりして出て行く火讐くんの姿は痛々しくて、
ちょっとかわいそうだったかな、と思うけど。

でも、間違ってない。
火讐くんはしちゃいけないことをした。


それから一週間、ボクは火讐くんと口をきかなかった。
舎弟たち(とくに火讐くんの)がおろおろしてたけど、知らないふりを決め込んだ。

「あにき・・・許してください」

帰り道で腕をつかまれる。
待ち伏せしてたんだな。なるべく顔も合わさないようにしてたから、

「なに」

わざと突き放した口調でそう言ってやると、火讐くんはただもうひたすら、という様子で頭を下げた。

「許してください」
「まだボクのこと好きなんだ・・・」
「あたりまえです」
「ボクはこういうの、経験ないからわかんないけど・・・やっぱり我慢できない」

ああ、ボクって冷たいな。

「でも、君を失うのはもっと、・・・」
「あにき・・・」
「火讐くん」

じっと見つめると、今度はそらさずに見つめ返してきた。
ボクの好きな青い瞳。まっすぐにボクを見る。

「二度と、ボク以外触らないで。次は許さないから」

途端に火讐くんの顔がぱっと明るくなる。花が咲いたように。

「はい!誓って」

ああ、君のそんな顔を見るのたまらなく好きだよ。

「じゃあ今夜はおしおきだね」
「おしおき?」
「君はやさしくするだけじゃ足りなさそうだから。
酷くしてあげる。ボクのこと嫌いになるくらいに」

ちょっと鬼畜っぽく笑ったつもり。

「あにき!」
「え!」

なにその表情。めちゃめちゃいきいきしてるけど。

「大歓迎です!」
「ちょ、お仕置きだからね!?」
「ちょうど、縛ってイけなくする道具あるんすけど、使いませんか?」

自らかよ!

「泣いておねだりするまで外しちゃだめですよ」 

それ、普通は攻め側が言うセリフなんですけど・・・。
ていうかどこで手に入れたのそれ。

「・・・紋武から・・・」

ああ、全然懲りてないね、君って人は。
ていうか、やっぱり紋武くんだったんだ。そうだと思ったよ。

「すいません」

いいよ、いいよ、もう。
こんなにボクを求めてくれる君を突き放すなんて考えられないもの。
君に触れないでいるのはボクだって限界だったから。
君を取られないように、励みましょう。愛情だけはたっぷり込めてじっくりと、ね。




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