手練手管


基本的にオタクは話好き。
無口に見えてもその実、語りたくてうずうずしているってこと、最近知った。

例によって団子の部屋。
例によってパソコンに向かう団子とベッドでごろごろしているオレ。

「お前さ」

漫画を読むのも飽きて部屋の主の後姿に視線を移す。

「マジでリアルで恋愛する気ないわけ?」
「三次の男は」

背を向けたまま団子は律儀に答える。

「つきあったら、すぐにずうずうしくなると聞いてます」
「まぁ、人によるだろうけど」
「そんなに好きでもない人に生活を汚染されて堕落するのはいやです」
「厳しい」
「それにね、エロ漫画やSSだとヒィヒィよがってるけど、
あれってありえないでしょ。
×××には神経あるけど産道には神経ないんだから。
現実は少しも気持ちよくないに違いないんだよ。
例外はあるだろうけど、それは幸運な人たちであって、
よほどの女性的魅力と性への探究心がないと・・・この話、まだする?」
「お前が勝手にエロい方向に進んでるんだけどな」
「その言い草はなんなの!真面目に答えてるのに!」
「そんな真面目なところが好き」

ぬけぬけといいながらつつつ、とよりそう。
団子は画面の中の陵辱図を隠そうともしない。平然としたものだ。
チラッと横目で確認してから、ぺたりと座り込み、
団子の背中に流したおさげ髪を持ち上げて
しっとりとした重みを楽しむ。

「堅物女の癖にエロマンガにハァハァしている矛盾したところも好き」
「オタクはハァハァするのが仕事です。
そのエネルギーを二次創作にぶつけるのです」

中学のときひ弱だった体はまぶしいほど健康的に発育したのになぁ。
ちょっとその気になればできることを決してしようとしない。
これがオタク。


「じゃあさ」

髪を掻き分けて耳を露出した耳に触れる

「もし、お互い好きでつきあって楽しくて気持ちよかったら?」
「それならあり」
「ふぅん。ありなんだ」

息を吹きかけてもいやがらないので、そっと唇をつける。

「けど、その確率はかなり低い」

うっすら肉のついたうなじがほんのり紅くなってなんだか美味しそうだ。
遠慮なく口をつけて吸おうとすると、イヤイヤと首が振られた。残念。

「オレとなら全部クリアなんだけど?」
「お断りします」
「即答かよ!」
「あたりまえでしょ」
「女同士だから?」

だったら思わせぶりな態度取るんじゃねーよ。
てか、オレの腕の中で、うっとり目を閉じてるその姿はなんだ。
と、長いまつげがまたたいて、濡れ濡れとした目がオレを捉えた。

「そんな即物的な理由はイヤ」

さすがのオレものけぞった。

「めんどくせー!」
「めんどくさいのがイヤなら、
悪いことは言わないから腐女子とつきあうのはやめときなよ」
「うるせー。そんなこと、今更言われるまでもないんだよ!」

こういうやり取りもお約束。

(恋愛は)

恋愛は相手の土俵でするものなんだな。
理屈好きのオタクなら理屈で攻める。
最近の(かどうかは知らないが)男たちは
そういうことを面倒がるからこんな情けないこと言われるんだな。

(よく見ろ、こいつを)

やめろと言いながらちっともやめて欲しそうじゃないことくらい、
どんな鈍い男でもわかるはずだろ。


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