女番長の憂鬱


「けどよ」

頬杖をついてけだるげに言うのは、高い位置でザンバラに結い上げたワイルドな髪型と
はちきれそうなお胸が目を引くセクシー系スケバンの紋武くん。

「スケバンが処女守ってんのかっこわるくねぇ?」

この言葉に真っ先に反応したのが火讐くん。
昔ながらのスケバンスタイルがよく似合う、バリバリに硬派な女の子だ。

「とんでもねーヤツだな!寄るなケダモノ!」
「あーひでー」
「オレは男なんか嫌いだっ!」
「やれやれ。お固いねえ・・・」

周りにいる、これも気合の入った女子の皆さんは、
ふたりのやりとりを「またはじまった」とにやにやしながら見ている。

つーか、ボク、どうしてこんなところにいるんでしょう??
いわゆる腐った女子のこのボクにふさわしいのは図書室や文芸部室なのに、
なんでボロボロのすさみきった部屋で怖い女の子たちに囲まれてるの?
ものすごく場違いですよね?住む水が違いますよね?
こういう話も生理的に受け付けないですからね。
腐女子は清純なのです。

「姉御も男なんか嫌いっすよね?」
「え!」

もう、ほっといてほしいのに。あたりまえのようにふられちゃった!
男、男ですか。
ボクは三次元の異性は激しくノーサンキューなんです。
でも、もちろんそんなことはいえない。

「そ、そうさ。女は固くなくちゃダメだ!
そうでないと男に利用されるからな!」
「さすが姉御っす!」

ボクの適当な(ごめん・・・)返事に、火讐くん、ぱっと顔を明るくして
手を叩いて喜ぶ。
こういうところはかわいいと思う。

「ほら聞いたか!てめーなんか男にいいように利用されて
ボロ雑巾みたいに捨てられるのがオチなんだよっ」

うわ、火讐くんそれはいくらなんでも酷すぎでは(汗)
でも間違ってなくはない、うん。

けど、死んでも言えないよねぇ・・・。
男嫌いの硬派で通っているボクが、
アニメの男キャラを裸にして絡ませてるなんて・・・。
しかも、股間部分までばっちり描きこんでるなんて、ねえぇ・・。

「なに見てんだ?」
「あ、火讐さんも見ます?面白いっすよ」

ぶっ。
そ、それは、ボクの描いた同人誌じゃないですか!!
なんかにやにやしてるって思ったらそんなものを・・・。
どこから流出したの・・・ああ、きっと茶越くんだろうな・・・(泣)

火讐くん、ちらりと見て「気持ち悪ぃ」と顔をそむけた。
うう、やめて。痛いから。わかってるから。

「「期待はずれでごめんなさい(泣 次の本では頑張っちゃう!
ちくびにトーン貼っちゃう!」だって・・・」

ちょ、編集後記読まないでよっ。
それ書いたとき徹夜明けでハイになってたんだから。
やーめーてー。

「これ描いたやつ、近所に住んでんだな」

奥付まで見てるーーー!

「これ、おかしーぜ。なぁ?」

あれ、紋武くんのこの一言で、その場の雰囲気が一変したぞ?
みんな、なんか「うー」とか「あー」とかうなって目を泳がせてる。
そんなみんなを見ながら、紋武君は続けて言った。

「だから、チ○○が・・・」

えええええ。おかしいのそこ!?よりによって。

みなまで言う前に、火讐くんが目を吊り上げて怒鳴った。

「姉貴の前でキタネー話すんじゃねぇー!!」

ああん、聞きたいのに、火讐くん邪魔しないでよお。
でも聞きたいなんていえないし・・・どうしよう。

「お待たせ」

数十分後、派遣組の部室から出てきた茶越くんが、
待ち構えているボクのところにやってきた。

「あのな」
「なんだった?!」
「まず言っておきたい。お前、乙女にこんなこと頼むなよなぁ。
恥ずかしいだろ」

乙女というガラですか、とちょっと思ったけど言わないでおこう。。

「う、ごめんなさい。謝ります。で?」
「あーー・・・・・いいにくいなぁ」

口は悪くても茶越くんもまっさらなんだよね。
羞恥心あるんだ。すこしは(酷い)

「えー、言ってよ。お願い!間違ったままだとボク恥ずかしいよ」
「しょーがねーな・・・あのな」
「うんうん」
「男のアレの・・・アレってわかるか?」
「そんなとこで切らないでよ・・・わかるよ」

あれっていったらあれしかないでしょ・・・。
ほかのところはふつーに資料見てるし。

「先っちょにあるのは点じゃなくて割れ目なんだそうだ・・・」

言い終わると同時に頭を抱えてうずくまってしまった。ちょっと気の毒。(酷い)

「な・・・なるほど・・・」

そうだったんだぁ・・・なんだか霧が晴れたようだよ。
紋武くん、ありがとう。次の参考にさせてもらいます。メモメモ。

「てか、ふつーにセクハラだよな?これ」
「茶越くんが悪いんだよっ。ボクの同人誌流して」
「これでチャラだ・・・しかし、なんだな」
「ん?」
「あの火讐ちゃんって、お前よかよっぽどすれてないな」
「なんだよそれ。・・・ボクみたいな清純な乙女を捕まえて・・・」
「自分で言ってて悲しくなったろ?」
「い、いつもはあんな細かく描き込んだりしないんだからね・・・」 
「すげー怖い顔で睨んでたぞ。『やなもん聞いちまった。耳が腐る』って」
「ああ、言うだろうね」
「で、『なんだよ。お前だっていずれすることだろ』って言われたら」
「うわぁ・・・想像するのも恐ろしい」
「『オレはしない!そんなキタナイことっ!』って。バッチリ宣言しちゃったよ」
「ほぇ〜さすが・・・」
「おかしな点を指摘できるのがダブリのあの人だけってことは、
経験者はひとりだってことだし」

あ、それで目が泳いでたのね。納得しました。

「スケバンが実は一番清純派か」

・・・はい。文字通り腐ってますから、ボクら。

「でさ」
「ん?」
「そのあとがちょっとへんなことになっちまったんだよな・・・」
「なになに?」
「聞いたまんま言うわ。
『お前さー、マジで男興味ないわけ?』
『うるせーな。どうでもいいだろ』
『ふーん・・・めずらし』
『めずらしかねーよ。てめーがスキモンなだけだ』
『自分でしたりしねーの?』
『なにを?』
『あー、いい、いい。お前はまっさらでいろ』
『なんだよそれ。バカにすんなっ』」
「なにその雰囲気・・・」
「なんか目覚めさせてしまったかもしんねーぞ?」
「良かったな。お前こっちもイケるし。参考になるだろ?」
「勘弁してください・・・」

ボクのワイルドライフは始まったばかり。



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