コンビニエンス


拙者は幸せ者でござる。

ちょっと小腹が空いたね、と言ったら団吾殿、
拙者の家の冷蔵庫のある食材で卵どんぶりを作ってくれたのでござる。

「どうぞ、召し上がれ」

たまねぎとしょうゆの香ばしい香りがぷんと鼻をくすぐる。
う、これはリアルなんでござろうか。
二次元美少女はどんなに愛しても尽くしても
あったかい料理は作ってくれないでござる。
いや、作ってくれるかもしれないけど
食べることはできないでござるよ。

お母上、産んでくれてありがとう。
今はじめて心からそう思ったでござる。

「ありがたくいただくでござる」

箸をつけると、とろりと黄身が溶け出してきて
口の中に入れると期待通りとろとろ。

はあ、リアルはいいでござるな。

団吾殿が拙者のために作ってくれた一品、食べてしまうのが惜しいでござる。
惜しいでござるけど空腹には勝てない。
ぺろりと平らげてしまったでござる。

「美味しかったでござる。団吾殿は料理も上手なんでござるな」

箸を置いてからそういうと、団吾殿は満足そうににっこりした。

「そんなにやってるわけじゃないけどね。これくらいなら」

確かにそんなに慣れた感じではなかったでござるね。
たまねぎの刻み方もぎこちなかったでござるし。
もちろん、そこがかわいいのでござるが。

「いやいや、十分お上手でござる。そのお年でなかなかできないでござるよ。
すぐそこにコンビニがあるでござるから、
普通のヤングならそこで済ましてしまうでござる」

「うーん、コンビニってそりゃあ便利だけど、さ」

ちょっと視線をそらしてちいさな声で。

「ボクんちの近くでもコンビニでおべんと買ってるカップルとかよく見るけど、
プラスチックケースのまま割り箸で食べて、ゴミ箱にポイ、ってのは、
いかにも今時の若者文化を象徴してるというか、
なんか、お手軽な関係って感じで」

そこで拙者に向き直った。

「あんまり好きじゃないんだよね」

だから、なんでそんなどツボつくような台詞を、表情を、

「わかるでござる。そんな退廃的な若者文化は、
拙者たちが断じて避けて通らねばならないものでござる」
「そう?じゃ、ついでにジャンクフードとジュースもやめよう。
体に悪いしね」
「え、それは・・・」
「退廃的な若者文化の避けて通らないと」

小腹が空いた時いつも団吾殿か作ってくれるのならやめるでござる。
なんて神をも恐れぬ大胆発言はさすがにできないでござる。

とりあえず、拙者も団吾殿を見習ってすこしは自分の食べるものくらい
自分で考えることにするでござるかな。
それが、
きこちない手つきで一時間もかけておやつを作ってくれた団吾殿への
報いになったらいいでござるけど。
なにせ、他人で拙者の体の心配なんてしてくれる人は
世の中にこの人しかいないのでござるからな。



BACK