夢の中では


火讐は後悔していた。

(寝る前にあれを読んでたのがマズかった・・・)

あれとは、舎弟たちが作った団吾写真集。
普段の長ラン姿から、体操服、私服、
そして変装した(と火讐は信じている)オタクバージョンと、
あらゆる姿の団吾を楽しめるレアモノの逸品、
もちろん隠し撮りである。
一番の目玉はねじり鉢巻にはっぴにサラシ、下はフンドシだけという
日本男児スタイルの団吾。
とてもワイルドでかっこいい。男も惚れる立ち姿だ。
それはいい、が、問題がある。
見てはいけない、と思っても
ちらちらと視線がそこ、つまり、不自然なまでに盛り上がった局部に
行ってしまう点だ。
なに意識してるんだ、と思えば思うほど目に入ってしまうのだから困る。
これはヘンだ。あきらかにヘンだと常々思っていた。いや、考えないようにしていた。

(はじめはこんなじゃなかったのに)。

純粋にあこがれていたはずだ。
すべてに投げやりになっていた火讐を、命をかけて助けてくれた。
本当はずっと誰かに言ってもらいたかったことを言ってくれた。
ほんとうに、このひとのためなら死んでもいいと思った。
今でも思う。
それがびみょうに変わってきたのは、団吾が髪型を変えてからだ。
それまでは容姿なんかほんとうにどうでもよかった。
いいのか悪いのかなんて考えなかった。
リーゼントをおろし、傷跡も目立たなくなってはじめて、
時々はっとするくらい綺麗な顔をしていることに気づいてしまったんだ。
(綺麗でやさしい、オレの兄貴。)
それは自慢にしていいはずなのに、いらない感情を芽生えさせてしまった。

あんな綺麗な顔をしていて、百人斬りをしているという噂のわりに、
団吾は女っけがまるでない。
それを火讐はよかったと思っている。
兄貴の隣に女がいるのを、自分はきっと気に入らないと思うからだ。
それでも、まさか童貞ではあるまい。
(百人も斬ったのなら男のひとりくらい・・・)
気が付くとそんなことを考えてしまっている。

(だからって、あんな夢を・・・)

ちょっと思い出しただけで顔が赤くなる。
あの身勝手な妄想。
組み敷かれて、服を引き剥がされて、
体を撫で回されて、荒々しく貫かれた。
でも、気持ちよかった。うれしかった。

(夢の中とはいえ、サイテイだ)

だけど。
まだ体が疼いている。夢のせいだ。
そろそろと、後ろめたさを感じながら股間に手をのばす。
下着の中に手を入れ、それを握る。
パンパンに膨らんだそれはもう濡れていた。
「ふ、・・・」
手で上下に擦るともっと溢れてきた。
滑りが良くなって手の動きが速くなる。
夢の中の性急な、でもどこかにやさしさを感じさせる団吾の動きを
思い出しながら一心にそれを擦る。
「んっ、あ、あにき・・・」

自分のこの手が、団吾のだったらどんなにいいだろう。

擦るだけじゃ足りなくなってきて親指で先端をいじめる。
「は、はっ、」
しごきやすいように浮かした腰がゆっくりと揺れだす。
まるで団吾のを欲しがってるみたいだ。

夢の中で団吾を受け入れたそこは、自分では慰められない。
自分の指ではきっと気持ちよくなれない。

「んぁ、あっ、」
その瞬間、ぎゅっと閉じたまぶたの奥で強く願った。

兄貴に犯されたい。
あの大きいのを、オレの中に突っ込んで、掻き回して、めちゃめちゃにしてほしい。

「兄貴、」

ちいさく叫んで達してしまった。
熱を帯びた体と逆に頭は急激に冷えてくる。
もう明日は兄貴の顔が見られない。
罪悪感とともに、すこしだけ征服欲が湧き上がってくるのが
我ながら不思議だった。
これからもたびたび団吾を汚してしまいそうな気さえする。

(ずるいです兄貴・・・)

火讐は枕の下に入れていた団吾のスナップ写真を引っ張り出した。
それに思い切ってキスをすると、すばやくまたもとの場所に納めて、
今度は安心して目を閉じた。



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