合宿の夜


派遣組合宿一日目の夜。

乱はなかなか寝付けずにいた。
多分さっきまでのバカ騒ぎの余韻が頭に残っているのだ。
いくらクーラーを効かせているとはいえ、
若い男のむっとする熱気とにおいに満ち満ちた部屋ではなおさらだ。
乱は何度か寝返りを打ち、時間が過ぎるのを待つ。
2時は過ぎた頃だろうか。

(ん・・・?)

無造作に伸ばしていた腕の先に違和感。
意識を集中させると、確かにくすぐられているような感触がある。

(誰だ・・・)

誰かの手が乱の手をまさぐっているのだ。
と、突然四本の指全体があたたかいものに包まれてぎょっとした。

(なにを・・・)

腰を浮かせかける。
すると。

「兄貴・・・」

聞き覚えのある声でそう呼ばれた。
「ちゃんといますか・・・?」
不安げにささやいてきゅっと握ってくる。
乱はほっとした。

(こいつ、寝ぼけてるな。)

確かに乱・御手洗・火讐と布団を並べたのだ。
その御手洗はいつのまにか姿を消している。
普段は生意気で憎らしいヤツだが、
ねぼけて大好きな人の所在確認するなんて幼児みたいでかわいいじゃないか。
そう思って、きゅっと握り返してやる。
「ああ、ちゃんといた」
顔の見えない闇の中でも、にっこり笑った、ような気がした。
「兄貴・・・」
昼間の彼とは180度違う、切なげな声に乱はぞくりとする。

「やったんですか?ほんとうに・・・」

先刻のアレか。確かにはアレは衝撃的だった。
まさか信奉する兄貴の情事を垣間見てしまうなんて思ってなかっただろう。
実際あのあとずっと、火讐は思いつめたような顔をしていた。
「兄貴・・・なにも会ったばかりの女なんかと・・・それくらいなら・・・」

(ちょ、ちょっと、ちょっと待て。)

なんだこの展開は。なんだこの心臓の音は。オレのか?

寝ぼけているのか、それとも正気なのか、
両の手で乱の手のひらをまさぐりながら、彼はなおも続ける。

「兄貴・・・オレ、兄貴になら・・・」

(わーーーーーーーー。)

これはまずい。絶対まずい。
その気もないのに人様の一世一代の告白を聞いてしまった。

乱はわざと乱暴に火讐の手を離すと、
「いい加減にしやがれタコ」と手加減した蹴りを一発腹に食らわせてやる。
もちろん火讐の驚いたことといったら。

「て、てめーかよ紋武!いつからいやがった!」

と、こちらはまったく手加減のない右ストレートが炸裂。
「てめー、聞いたか?聞いたか?死にたいか?ああ!?」
思い切り逆切れして乱の襟首をつかんでブンブン振り回し、
我に返ったのか、急に立ち上がって部屋を出て行ってしまった。

(こういうの、なんていうんだっけ?)

あとに残された乱はズキズキ痛む頭をひねる。
人の恋路を邪魔するやつは・・・いや、別に邪魔してないから違う。
ああ、あれか。

触らぬ神にたたりなし。

合宿ネタ派遣組編第一弾。
ほんにSさんとのメッセはネタの宝庫ですvv


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