ああ、我ながら無茶をした。
「兄貴、来てくれると思ってました」
でも、いつもは君のほうがずっと無茶だ。
「兄貴がオレ達を見捨てるわけないっすもんね」
ボクを守るために傷つくことをいとわない君。
そんな君にすこしでも応えたかった。
今だけはすこしは君が守るに値する男になれただろうか。
「違うぞ、火讐」
「え」
「オイは、お前を守るために来た」
その時は、どうしても言いたかったんだ。
死んじゃいたくなるほど恥ずかしい台詞だと気づいたときは後の祭り。
突然のボクの告白に、火讐くんはあっけにとられた顔をしていたが、
ふいにくるりと背を向けた。
肩が震えているのは気のせいではないだろう。
どうしよう。
「そんな冷たい人だったなんて。がっかりっす」
とか言われるかな?
「火讐、怒ったか?」
「とんでもない」
そういって、火讐くんはボクに向き直った。
「うれしいっす、兄貴」
そう照れたように笑った顔は文句なしに可愛かった。
「火讐・・・」
胸がぎゅううと締め付けられてるのに、いやじゃない、へんな気持ち。
「兄貴、オレんち、来てくだせえ」
へ?
「怪我の手当て、したいし・・・」
あ、手当て、ね。なんだ。
で、舎弟さんにバイクで送ってもらって、火讐くんちにお邪魔しました。
親御さんは、と聞いたら「妹連れて遊びに行ってます」だって。
そういえば今日は日曜だっけ。最近曜日の感覚ないや。しかもまだ昼間。
二階の火讐くんらしいいシンプルな部屋で、
「適当に座っててくだせえ」と言われて
ほかにそれっぽいものが見当たらないので
いいのかなと思いながらベッドに腰掛ける。
火讐くんはすばやくボクの傷を消毒して包帯を巻いてくれた。
ボクシングをやっていたというだけあって慣れたものだ。
「兄貴・・・」
その手際に感心していると、
ボクの前に跪いた姿勢のまま、火讐くんがじっとボクの顔を見つめていた。
「なんじゃ・・・」
「さっきの、ほんとうっすか?」
さっきの、って、もちろんあれだよね。
あらためて言われると照れちゃうよ。
「男に二言はない」
「すげえうれしかったっす・・・」
はにかむように笑う。
うう、こんなふたりっきりのところで蒸し返さなくても。
こういうのは後日学校でさ・・・ゆっくりじっくり育もうよ。
火讐くん・・・ねえ。
そんなまじまじと覗き込んでこないでよ。そんな熱っぽい視線で。
「兄貴・・・」
「なんじゃ」
「オレ、兄貴になら・・・」
え?え?
なに、この展開。
いきなりなの?男同士ゆえの葛藤とか一切なし?
しかも、火讐くん、なんでボクのズボンに手をかけてるの??
しかも引っ張らないでよ。脱げちゃうじゃない。
「や、やめろ火讐!」
抵抗したところでボクと火讐くんでは話にならない。
あっといまにパンツまで引き摺り下ろされてしまった。
「ん・・・?」
ああああ〜〜〜〜。バレちゃう!
「兄貴・・・」
「か、火讐・・・」
「こんなにちぢこまって・・・すんません。オレのせいですね」
「へ?」
「オレが無茶するから・・・」
ちょ、ボクでもびっくりするくらいの好意的解釈だよ!
「オレが治します!」
で、こうくるんだ・・・。火讐くんポジティブすぎるよ。
ああ・・・だめだよ火讐くん・・・・・・これでフツーなんだよ・・・
でも火讐くんはもっと頑張らないとって頑張っちゃうんだよね。
そういう子だよね、火讐くんは。
「か、火讐、もう良い・・・」
「でも・・・」
「そんなことはせんでいいから・・・」
「オレがしたいんです。させてくだせえ」
ていうかもうやめてください、頼むから。
「でも、全然変わらないっすよ?小学生みたいっすよ?」
それ以上言わないで痛いからお願い・・・。
「いや・・・これでいいんじゃ」
どんなに頑張ってもそんなには変わらないですから・・・(涙)
「兄貴・・・あ!そ、そうっすね。」
「へ?」
「兄貴は性能で勝負するほうなんすよね。だからあえてコンパクトにしてると!」
うん、火讐くん。自分でもなにを言ってるか分かってないよね?(汗)
しかも天然で酷いよ。
「そ、実はそうなんじゃ・・・」
「さすが兄貴!じゃあ、頂きます」
結局頂かれちゃうんだーーー!!
この分だと、「兄貴はこんなところも優しく出来てるんだぜ!」
と好意的解釈してもらえるかも(汗)
あ、でも、未経験なのバレちゃう。
同人誌知識総動員でなんとか・・・ならないよね。どうしよう。
「兄貴はなんにもしなくていいっす。オレが・・・」
え?いいの?
下手に何とかしようとするとボロが出るから、逆に何もしないほうがいいかも・・・。
あれ、でも、これってマグロ攻めってやつ?
なんか、「一番の舎弟にご奉仕させる大番長様の図」って感じたけど、
望んだわけじゃないからね(汗)あくまで襲われてるのボクだから。
て、火讐くん、それはだめだよそれは。
慣れない舌さばきで必死でご奉仕してくれる図がかわいいとか
いってる場合じゃないから。
「火讐・・・そんなことは・・・っ」
「いいんす・・・兄貴が気持ちよくなってくれたら」
「ばか」
軽くデコピン。
「そんな娼婦のような真似はやめろ」
「兄貴・・・」
「今度はオイがしてやる・・・」
「あ、兄貴・・・」
「なんだ。さっきの威勢はどうした・・・?」
よし。さっきのでやり方はだいたい覚えたよ。
「どうした火讐・・・もう降参か?」
「うう・・・ひどいです兄貴」
同じ体なんだからだいたいツボはわかるしね・・・こういうときって便利なんだな。
「ほら、こうしたらいいじゃろう?」
「うう・・・」
女の子相手だったらこうはいかないもんね・・・。
火讐くん、けっこう感度いいのかな?
触れれば触れただけビクビクッと反応してくれて
ボクもちょっと楽しくなってきちゃった。
はじめての相手が同性で良かった!・・・の、か、な?
そんなこんなでいろいろやって、最後は・・・・・・えーと・・・。
・・・・・。
「火讐・・・」
「なんすか兄貴」
「今日はここまでにしておこう」
「えーーー!!??」
うん、そうだよね。当然の反応だよ。
「ど、どうして!?」
「・・・・・・溜めて溜めてからのほうがいいのじゃ・・・わかるじゃろう?」
「さ、さすが兄貴・・・」
いやべつにおあずけプレイとか高等なもんじゃないですが(汗)
良かった。なんとかごまかせた。
はやく帰ってネットで調べないと!
「どうしよう。こんなことボクできないよお・・・」
その日の夜、ボクは受話器の向こうの茶越くんに泣きついていた。
「だいたい、なんでお尻に・・・おかしいよ。ねえ、おかしいよね?」
「オレに聞かれてもなあ」
まさに仰るとおり。茶越くんもこんな相談されるとは思っていなかっただろう。
「だって、直腸洗浄してこいなんて言えないよ!」
「お前、どんなサイト見たんだ?」
いや、フツーにハウツーサイトですが。ゲイのだけど。
「でもお前に言われたら彼やってくんじゃないの?」
「それは・・・さすがに」
「準備万端っす!いつでも来てくだせぇ!みたいな」
あああああああああ。容易に想像できてすごいいやなんですけど!
「そうなったらもう頑張るしかないな」
「茶越くん・・・」
「プリントアウトして最低五回読んどけ」
どうしてこう、茶越くんってみょうな行動力があるんだろう。
で、次の日の放課後。火讐くんの家にて。
「直腸洗浄ってどうやんすか?」
真顔で聞いてくる火讐くんに重々しく説明する。
「・・・シャワーのノズルを尻に突っ込んで水を流して踏ん張って出す。
それを何回かやったら中が綺麗になる」
口にするだけでも死ぬほどいやなんですけど。
ていうか、もしかしなくても、ボクが属する世界の真逆だよね、これ。
さすがに顔が見られなくて目を泳がせているボクと対照的に、
火讐くんは毅然とした態度を崩さない。
そしてきっぱりと言い放った。
「わかりやした」
「ほ、本気か?そのようなことをする気か??」
説明したら諦めてくれるかと思ってたのに!
「お前のような男らしいヤツがそんなことしたくないはずだ」
「兄貴のためならなんだってしやすよ」
あああああああ。
ひょっとして諦めさせようと思ってかえって火讐くんを燃え上がらせちゃった?
試練は兄貴のために乗り越えるぜとかそんな感じ?
やっぱりボクらとは別人種だよ。とてもじゃないけど、勝てそうにないよ。
でも、うん。
ここでやらなきゃ男が廃るよねえ。
もともと腐ってる腐男子だけど。
覚悟を、決めるしかないか。
漢は黙って玉砕精神!
♪目の前にそびえる壁におびえてないか〜
そいつはお前の手でしか壊せないのさ
恐れず進め玉砕パ〜ンチ〜〜
「兄貴、それなんすか?」
「あ、声に出てたか?すまん。このリズムでやるとすごく・・・
いいんだ、うん」
「そうすか。ならやってくだせえ」
ああ、火讐くん、いい子だなあ。
ごめんね、せっかくの初体験がこんな、
心の中でアニソン歌いながらケーキ入刀ならぬ兄貴挿入、なんて・・・。
でも、許して。ボクオタクだから。
勇気のアニソン発動しないでもできるようになるよう頑張るから。
きっと、そのうちに・・・。
ああ、この歌詞って、思った以上に人生の示唆に富んでいるよね。
座右の銘にしようかなあ。
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