十人十色


昔どっかで読んだ本に、恋とは異性に対する美しい誤解だって書いてあって、
ずいぶん身も蓋もない表現だと思ったものだけど、
異性を同性に変えたらバッチリ当てはまる事例がここにある。
「恋は盲目」とはよく言うが、アイツらの場合、
耳も、いや、五感全部にフィルターがかかっている。
アイツら見てると、オレはまだ一度も恋なんかしてないんじゃないかって
思うくらい。

アイツらに比べると、オタ友達のほうは、素の団吾を好いてるんだろうけど、
脳内で眼鏡の貧乳美少女に変換して萌えていないという保証はない。
いや、きっとやってる。

最近、こんなことばっか考えてる。

気がつくと、オレの目はアイツを追っている。

迷惑がられても、こわい舎弟たちににらまれても、
オレは派遣組に入り浸っている。

あの軟弱男がよくここまで変われるもんだと感心して眺めてる。
うまく演技していても、ずっと見てると時々素の顔が現れて
それがすっげーうれしかったり。

どうやったらこんな色になるんだって感じな赤い髪。
同じ色の宝石のような目。
長いまつげ。ツンと尖った鼻。ぷっくりとした唇。
よくよく見るとすっげーかわいい顔してる。

団吾がオレの視線に気づいた。

「おい茶越。テメェさっきから何ガンつけてんだ、ああ」

お、舎弟がいなくてもココでは番長モードか。
そりゃいつ誰が入ってくるかわからんからな。
オレの目を睨むようにして、団吾が覗き込んでくる。

つーか・・・近くで見ると、やっぱまつげなげーな。

「おい、なんとか言えよ」

オレがじっと見つめたまま動かない事に不安を覚えたのか、
団吾はちょっと口調を和らげた。

手を伸ばせば、届く距離。
少し顔を動かせば、唇にも届く距離。
こんなにオレたちの距離が縮まったのは初めて。
不覚にも、オレの血という血は全て顔に集まった。
そしてその赤面の意味を、オレが団吾から目を離せなかった意味を漠然と悟る。

「団吾」
「なんだよ」

団吾の胸ぐらを掴んで、思い切り自分の方へ引き寄せて、
唇に噛み付くようにキスをしてしまった。

オレ、なにやってんの?

「な・・・なななな」
団吾は目を白黒させている。
「オタ番のお前なんか好きになるのオレくらいだろ!
お前もオレで我慢しろ!」

オレ、なんでこんなに喧嘩腰なの?

「あ、違う。悪かった。その・・・」

こんな口説き方があるか。オレのバカバカバカ。

「その、オレはさ、お前に常人外れの腕力とか、
猛火に耐える強靭な皮膚とか、
ライオンを生で食らうワイルドさとか、
ピンチの時には放電するトゲつきの尻とか
真っ白い羽飾りのついた巨大なチ○コとか求めねーから」

言ってていやになってきたぞ。
なんでお前の舎弟たちは信じられるんだ?

「オタで二重生活やってる、素のままのお前がいいんだよ。
つきあって、団吾」

言いたい放題言った挙句、
結局、オレの告白は月並みな、しかも酷く恥ずかしいものになった。

「はあ・・・」
「はあってなんだよ!ほかに言うことあるだろ。
ボクには香涙野麗タンという嫁がいるとか、BLはちょっと困るとか」

オレって、照れ隠しにガンガンしゃべりまくるタイプだったんだな。

「いや、いい。言わなくていい」
「あの・・・」
「覚悟してろよ、団吾。オレはお前をオトす」
「こまるんですけど・・・」

こまるもなにももう遅い。

舎弟共ともオタ友達とも違うだろう。

「オレのこと好きになれよ」

そうささやいた時に団吾が見せた、
困ったような恥ずかしがってるような表情に、
オレの心臓は跳ねっぱなし。

ああ、ヤバい。ヤバイけど燃える。
萌えるじゃなくて、あくまで燃える、だ。
こいつといるとワクワクする。
いつもの自分とは違うことをしてしまう。
それってすごいことだよな。



BACK