妄想系硬派組


「ねえ、そろそろ部数を増やしてもいいんじゃない?」
コミケの喧騒も一段楽した午後、売り子席で戦利品の検分に勤しんでいた拙者に
小森殿がそう提案された。
「なるほど、我々のサークル、ぷりん@あらも〜ども軌道に乗ってきたでござるしな。
して、何部ほど」
「三百。いや、思い切って五百」
「五百はちょっとキツイかもでござろう」
「そのときはまーたんにメイド服で売り子してもらえば」
「小森殿」

その発言は聞き捨てにならないでござるよ。

「なんてことを言うのでござるか!」
「ど、どうしたの御宅田くん」
「小森殿は友人にへらへらと愛想を振りまけと申すのでござるか。
男子たるものみだりに媚を売るべからずでござるよ」
「御宅田くんは硬派だねえ」
あたりまえでござる。オタクだからって軟派とは限らんのでござる。
むしろそのへんの男子よりよほど美学を持っているつもりでござるよ。
「小森殿だって、道で踊っているセーラー服姿の男見て思うところはあるでござろう。
もののふが人様の迷惑になってどうする。けしからん」
「まぁ、あれはね…でも似合っていればいいんじゃない?」
そうでござるな。
団吾殿にメイド服、それは似合うでござろう。
だが。

「男子たるもの、そういうことは脳内でのみするのでござる」

「男だね、御宅田くん」
わかってもらってうれしいでござる。


そう、脳内でなら自由なのでござるよ。
メイド服だって巫女さんだって女教師スタイルだって。
純白のナース服なんか団吾殿のイメージにぴったりでござる。
いや、むしろ、看護学生の制服の方がよりベストなチョイスでござろうな。
メンソレータムの蓋についているあれでござる、あれ。
ここだけの話、あの少女は拙者のタイプど真ん中でござるよ。
あの格好は団吾殿の清楚さを最高に引き立ててくれるでござろうな。
その格好のままイベントデートとしゃれ込みたいところでござる。
あくまで妄想でござるよ?
いや、デートといえば定番は夏祭りでござるな。今の時期的に。
浴衣デートなんて乙でござるな。
最近のガラガラしいやつじゃなく、紺色の、紫陽花模様が入ったかわいらしいので。
色とりどりの派手な浴衣の中ではむしろ目立つのでござるよ。
団吾殿は周囲の視線を気にして拙者の袖を引くのでござる。
「みんなが見てるよ…」
そこで拙者は言ってやるのでござる。
「かわいい女の子だと思って見てるのでござろう」
団吾殿はぶんぶん首を振るでござろうな。目に見えるようでござる。
「絶対うそ。男だってバレてる」
「拙者には団吾殿が一番かわいく見えるでござるよ」
「嘘だし、嬉しくないし」
すねた顔がまたかわいいのでござる。
「背の高さだって、見せびらかしたいところだったから丁度いい」
ここで団吾殿の頬にぱっと紅葉が散るでござろうな。
「今夜は拙者がナイトでござるから安心召されよ」
そんな感じでたこ焼きでも食べながら花火を見るでござる。
あ、茶越殿、いたのでござるか。
なんでござる、その、ゴミを見るような目つきは。
「友達を妄想の中でもてあそぶのがオタ流の男らしさなのか」って、
違うでござる。もてあそんでなど断じて。
拙者はただ・・・、
あ、団吾殿には言わないで。お願い。武士の情けでござる。



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