押してダメなら押し倒せ


「お前は、いつも、『兄貴さえよければいい』なんていうから」

「それが本心だからそう言ったまでです。」

「いじらしいのはいいけど、オイの気がすまない」

「いいんすよ。
オレはイければそれに越したことはないけど、別にイかなくていいですし。」

「だから、それがいかん」

「そうですか?」

「一緒に気持ちよくなって欲しいのだ。
好きなやつに気持ちよくなってもらいたいのはあたりまえだろう?」

「その言葉だけで十分ですって。」

「火讐、今日はオイにすべて任せて、
オイの気が済むまでお前を可愛がらせてくれんか?」

そう言って、「酷いことはしないから」と付け加える。

兄貴がオレに酷いことなんてするわけがない。

「いいですよ、兄貴。」

答えはわかりきっていた。

「兄貴の好きにしてくだせぇ。」

そう言って、ベッドに横になったまま、オレは兄貴に手を伸ばした。

その手を兄貴が両手で包みこむ。

指先にぬるい感触。

兄貴がオレの指を舐め、口に含んでいる。
その感触だけで、へんな熱っぽい吐息が漏れてしまう。
拳を振るっているうちに皮が厚くなり、
血の臭いが染み付いた指だけれど意外に感じやすいようだ。

兄貴の舌と唇は、そのまま手のひらを、腕を伝い始める。
くちづけはやがて肩に達し、鎖骨を経て首筋を昇り、オレの唇に辿り着く。

最初は触れるだけの軽いキス。
それが次第に、触れるというよりは吸う行為になり、
舌を絡め、互いの口中を犯し合う行為に変わり始める。
キスだけで、腰の奥に火がついたのを感じる。

「好きだ」
「オレも」

それだけ言って、再びキスしながら、兄貴はオレのタンクトップを脱がしにかかる。
もどかしく思いながらも、少し体を浮かせてそれを助けた。
オレを裸にしてから、兄貴の唇が再び下り始める。
首筋を下り、鎖骨を経て、今度は胸へ。
乳首を吸われて、オレはついに吐息ではなく、甘い声を漏らしてしまった。

「や・・・っ」

出かかった声を自分の手でふさぐ。
やさしく吸われ、やわらかい舌先でつつかれるたびに
じわじわと快感が広がって泣きたくなるほど下半身が疼いてくる。
もう片方にも兄貴の手は伸びて、摘み上げ指の間で擦り合わされる。

ガマンしなければならない。それが兄貴の望みなら。

片手はそこに残したまま、兄貴のもう片方の手が下腹部に降りてくる。
太股を優しく撫で上げて、オレ自身に指が触れる。

「もうパンパンだな」

兄貴そのものを思わせる、繊細さの中にどこか大胆さを含んだ動きに追い詰められていく。
急激に高まった快感に息もつけず、短い悲鳴のような声を漏らして
オレはイった。

息が落ち着くのを待って、オレも兄貴の下に手を伸ばした。
まだなにもしていないのに兄貴のそれも張り詰めている。

「おとなしくしてろと言ったろ」

やさしくたしなめられても名残惜しく体をなぞる指が、
兄貴の脇腹から胸、頬まで伝って、今は乱れたリーゼントにしか届かなくなった時、
兄貴の唇はそこに達していた。

両手で顔を覆わないではいられない。

熱い舌が這いまわり、ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い、再びオレを追い詰める。
一度達した体は驚くほど敏感だった。
オレの意思なんか無視して、腰ががくがくと震え始める。

「兄貴・・・早く・・・っ」
「わかってる」

涙声で訴えると、あたたかい指がくちゅりと入ってくる。
掻きまわし、ある一点でぴたりと止まると、そこを中心に抜き差しが開始された。
はじめはゆっくりと、だんだん早く。

「兄貴・・・やめっ・・・」

覚えのない感覚がそこからじわじわと沸き上がり、
不安に狩られてオレは兄貴の手を押しとどめた。

「気持ち悪いか?」
「気持ち、いいです・・・」

体が正直に主張している。

「でも、なんか、へんな感じで・・・なんか、泣きそうで・・・」
「それでいいんじゃ。うんと気持ちよくなってくれ」
「いやです。兄貴、兄貴のを・・・」

そうか、と指を引き抜き、
態勢を変えて兄貴はしっかりとオレを抱きしめた。

「兄貴・・・オレ、兄貴だから・・・」
「わかってる。オイだから許してくれてるんだな」

こんな状態でも、頬を撫でてもらうと幸福感に満たされる。
女のように扱われるのはいやだけど、
この心地よさは一度知ったら手放せない。

抱き合って夢中でキスを繰り返して、息も整わないうちに
こんなときでも全然猛々しくない兄貴のあれが、
あてがわれ、入ってくる。
ほぐされていたそこはあっと言う間に兄貴のを飲み込んだ。

何も考えられない。ただ、兄貴の体温と快感だけがある。

白く弾ける快感と、落ちていく暗闇を何度も往復してオレは意識の綱を手放した。
最後に、兄貴、と呼んだつもりだったが、それはちゃんと届いただろうか。

気がつくと、すぐ近くに兄貴の顔があった。

「感じてくれてうれしいぞ」

唇に軽くキスされる。
兄貴はいつもやさしいけど、こんなときはとくにじんとくるくらいやさしい。
でも・・・。

「ずるいです、兄貴」

思い出しちまうじゃないですか・・・。

そんなオレの気持ち、兄貴はわかってるんだろう。

「すごく可愛かった」

なんて恥ずかしい台詞をさらりと吐いて髪を撫でている。

「言わないでください・・・」

ますます身の置き所がなくなり、せめて首をすくめる。

「お前はほんとうに可愛いなあ」

そんなオレを兄貴は自分の体で抱き込んで思い切り頭を撫でまわした。
ああ、どうしよう。

「たまにこういうのもいいだろ?」
「兄貴が望むなら・・・」

だから、そうじゃない。
兄貴の目がそう言ってる。

「兄貴とこういうことして、気持ちよくなれてうれしかったです」

上等、と兄貴は最高の顔で笑った。



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