たわいもない話


「チョ、知世子」

タイミングを計って出てきた私に、番長さん、真っ赤になっちゃった。
ふふ。知らなかった?普通きょうだいの部屋って隣り合ってるでしょ。
でもそうだよね、おにいちゃんのベッド、壁にぴったりはりついてるもの。
番長さんだって恥ずかしいよね。

「聞き耳立ててたりしませんよ。ほんとですよ」

そういってあげると、ほっとした表情を浮かべた。
感情が100%顔に出る。番長さんなのに。

最近、おにいちゃんがお風呂上りに上半身裸でいるとき、
つい、背中や首に痕が残ってないかと探してしまう。
そして、あの体はすでに番長さんのものだと思ってきゅんとなる。
もう、おにいちゃんは私の知らないおにいちゃんになっちゃってる。

綺麗なカーブを描く背中、番長さんはここに唇で触れたりしてるのかな。
うん、きっとしてる。
気持ちいいくらいくっきりと浮かび上がった筋肉や骨の線を
なぞらないでいられるはずがない。
手にとるようにわかるのは、私だったらそうするから。


「おにいちゃんが誰かにとられるのかなしいって気はありますよ」

ほんとはそんな感情、とっくに通り越してる。

「でも、正直、女の人よりはいいかなって」
「そういうもんか」

こんなんで納得するんだ。番長さんってほんとにいい人。

「でも、身も心もメロメロになってるのならやけるなぁ」

またぱっと赤くなった。ほんとに番長なんてできるのかしら。

「でも、これだけは気になるんですけど」
「なんじゃ」
「どっちが入れる側なんですか?」
「ぶっ」
「あ、ごめんなさい・・・入れなきゃならないなんて・・・偏見ですよね。
擦りあうだけでしたか?」
「ひょっとして、知世子は腐がつく女子なのか?
ピンクの背表紙の本が本棚に並んでたりするのか」
「声優ですから」
「そうか・・・声優さんならオタクで当然か」

ふむ、と番長さんは腕を組む。
そして、

「企業秘密じゃ」

と重々しく宣言した。
わかってないと思ってるんだ。隣にいて。
なんて罪のない人だろう。
いっそ私もこのひとに抱かれてみようか、なんて思って
自分のはしたなさに赤面した。

『おにいちゃんと私と三人でしませんか?』

なんて。

「番長さん」
「ん?」
「おにいちゃんを大切にしてね」
「おお」
「また家にきて。仲良くしてね。いつまでもよ」
「もちろんじゃ。かわいい妹分もいるからな」

邪気のない綺麗な笑顔に涙が出そうになった。



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