とりあえずあなたは罪な人
これはやっぱりある種の恋愛感情なんだろうか。 「オレ思うんだけどさ」 「なんだ?」 11月も近いのにまだまだ元気な太陽ががんがんあたる屋上。 若いオレらには肌に当たる風がちょっと冷たいくらいが気持ちイイ。 「火讐さんてMかな?」 「どうみてもSだろ」 「ベッドの中では」 「・・・Mかもな」 「だよな」 舎弟に昼飯のネタにされているの、あの人が知ったらどうするだろ。 知らん顔されるか、マジギレして殴られるか。 オレとしては殴られるほうがありがたいんだけど。 ガチでケンカしてボコボコにされて、(まさか勝てるとは思ってない) 縁を切ってしまったら。 なんて、思ってみただけだけ。 できるくらいなら、とっくにやってる。 「はぁ」 「自分で言って自分で傷ついてるよ」 出会った頃のあの人はそりゃあかっこよかった。 誰も寄せ付けない孤高の裏番長。オレらのあこがれ。 なのに、なんだ今のザマは。 「ツンデレにも程があるだろ・・・」 「ツンデレってのは普段は恥ずかしいからツンツンしてて ふたりっきりになるとデレる女のことだろ。 あの人、兄貴にはいつもデレでオレらにはツンじゃん」 「考えてみると、さいあくだな」 「ああ。萌えキャラには程遠いぜ」 空を見上げる。底抜けに青い秋空。 「しかし、まぁ、良かったよな」 「ああ。良かった」 「火讐さん幸せそうだし」 「ああ、それが一番だ」 この数ヶ月、火讐さんの視線の先にはいつも兄貴の姿があった。 いつか雫がこぼれるんじゃないかと心配になるくらい潤んだ目で、 側で見ているオレのほうが切なくなってしまうくらい。 あんな目で見られて落ちないようじゃ男としてダメだ。 そのへんはさすが兄貴と言えよう。 誰より強く男らしかったあの人にあんな目をさせてしまう。 さすがに歩く伝説は違う。 敵うわけがない。 「あの人、ナニの時は子犬みたいに従順だと思わね?」 「思う」 「なんでもしますとか言っちゃいそうじゃね?」 「そんな感じだな」 「だからといってあんまりいろいろさせたら嫌われるから自重するけど、 ある程度はさせるよな。 少なくとも手○○と○ェ○くらいは」 「お前こそ自重しろ」 「日毎あの可憐な唇を犯してるのかぁ〜」 「可憐な唇とか言ってるし。もう完璧そんな目で見てるし」 ああもしてるこうもしてると AV知識であれこれ妄想するのはあの人を汚すことだと反省し、 もうとっくに汚れてるんだよ、と自分で突っ込んでがっくりと頭を垂れた。 母さん、オレは、憧れの人をメロメロの骨抜きにされてるのに むしろそれをネタに興奮してる情けない男です。 しかし、それ以外になにができる?このオレに。 「帰ったらめいいっぱいオカズにしてやる!」 「ああ、そうしろそうしろ。それですこしでも気が晴れるならな」 うなだれた背中をぽんぽんとたたいてくれる盟友はいいやつだ。 ほら、きっと、見ているだけでなにもできないこんなダメダメな経験も 青春期には一度はしてみなくちゃならないんだよ。 けっしていいわけじゃなく。いいわけくさく聞こえるけど。 ・・・いいわけか、やっぱり。 なんつーか、いろいろもやもやしても、やっぱり近くにいたいし、 それでやっぱりもやもやしてたまらなくなっても、 それがみょうに気持ちよかったりして、 オレのほうがよっぽどMなのかもしれない。 |
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