愛という呪文


あの人を守りたい。すべてのものから。

「なんでああいうことするかな。パンピー殴るなって言われてるだろ」
「だってあいつら、にやにやしながら、
『×××の時はピアス外すのかな?』『冷たさと異物感がいいんじゃね?』
なんて言ってやがったんだぞ」
「その会話でぴんとくるのは自分もそういうこと考えてた証拠だ」
「まったくけしからん。あの人を性的な目で見るなんて!」
「お前が言うな」

確かにそう。その通りだけども。

「あいつらは興味本位だ」
「興味本位でなければセクハラも許されるのか」
「オレはいいの!」
「根拠は?」
「オレは舎弟だからな。あの人はいってみれば兄貴だ」
「舎弟が兄貴をオカズにするってヘンだぞ」
「う・・・」

こいつ、どんどんつっこみスキルが上がってるな。

「とにかく、オレは違う」
「だからどう」
「根本にあるものが違う。そう・・・愛・・・?」
「性欲か」
「愛だってば!」
「疑問形にしたわけは?」
「あんま考えたことないし・・・」
「性欲でいいんじゃね?オレらの頃ってそんなもんだろ」
「いや、違う」
「どう違う」
「性欲ならもっと手に入りやすい相手を求めるはず。
絶対振り向かないとわかっている相手に妄想するのは人間特有じゃないか?」

他校のヤツらが「あいつマワそーぜ」なんて相談してるかもしれないと
考えるだけで腹の奥が熱くなる。
あの人のかなしい顔は見たくない。辛い思いなんかさせたくない。

「威張って言うようなことじゃないが、
脳内でアレするとき、一度だって自分で犯したことないんだぞ、オレは」
「ほんとに自慢にならんな。しかもその情報知りたくなかったし」
「オレが相手じゃ喜ばないのわかりきってるからな。
妄想の中でさえ犯せないほど愛してるわけだ」

そう、性欲だったらべつに誰が相手でもいいはずなのに。それこそ他校でも。
あのひとが心から喜んでいる姿を見たい。最高にキモチイイ顔を見たいから。

「ただへたれなだけってのは禁句か?」

いや、それ自分でよくわかってるから。

「自信もって来たぞ。愛だ」
「なんでもいいけど、お前の性癖いちいちオレに知らせるのやめてくれね?」
「そんなこと言ったって、わかってるよ。お前がいいやつだってことくらい」
「げっ」
「ふっふーーん」
「ご機嫌じゃんか、気持ち悪い」

なんだろう。この、歌いだしたいような気分は。

愛という言葉を使うと、
オレのしていることがなんだか素晴らしいことのような気がしてきたぞ。

「愛ある生活って最高だな!」
「お前がそれでいいなら止めないけどね・・・」

今日も盟友の舌はよく動く。

「ホモでMでオナニストという事実はなんもかわらんぞ」

いいよ、もう。ホモでMでオナニストでさ!幸せなんだから、ほっといて!



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