君がすき
「見て見て」 PCの画面に映し出された真っ白い部屋。 意外にもいやらしさはまったくない。 大きな窓に面したダブルベッドは天蓋つきで、 ソファやテーブル、鏡台までついてる。 「ね、綺麗でしょ」 いわゆる、メイク・ラブ、愛を作るための部屋。 こういうところってもっと貧相なイメージあったけど、 これだけ綺麗なら文句ないな。 もう冷めたカップルでも、行きずりのふたりでも、 そのときだけは燃え上がれる魔法の部屋。 そのためにお金を払うんだよ、きっと。 でも、そんな情緒をトンと解さないのがボクの恋人。 「なんでヤるためだけに5000円も払うんすか。もったいねぇ」 そうなんですけどね。そう言ってしまったら身も蓋もないよね。 「一生の思い出にいいじゃない」 「思い出作り野郎なんて軟弱っす」 む。そりゃ確かに軟弱ですよ! 「夜景が綺麗だって・・・!ロマンチックじゃない」 「夜景みたけりゃ公園でやりやす?」 これはひどすぎる! 「うう、火讐くんのバカぁ。 ボクのキモチなんて全然わかってくれないんだからぁ!」 ボクたちオタにとって、クリスマスを恋人で過ごすってことが どれだけすごいことか、どれだけありえないか、わかんないんだろうな。 「じゃあ河原で・・・」 ああ、ほんとにわかんないんだね・・・。 「いやだよ!寒いもん!」 むしろア○カンのほうが燃えそうな気がしてきたよ、この子は・・・。 「見られたらどうすんのさ!ボク死にたいよ・・・」 「見たいやつには見せてやりやしょう!」 「君はどこまで男らしいの!でもバカ!」 「泣かんでくださいよ」 火讐くん、机に突っ伏したボクの背中をぽんぽんと叩く。 「春になったら山に行きましょう。夜景綺麗っすよ」 「でも・・・」 「ホテルがそんなにいいすか? 酒が飲めるわけでなし、急逝アル中で運ばれたら目も当てられないですし」 そりゃそうだけど。 「オレは兄貴とくっついていられればなんでもいいんすから」 火讐くん!君って子は! ハグしちゃう。 「オタ友達に自慢したくてたまらなくなっちゃった。 ボクの恋人は高いホテルより汚いオタ部屋のほうを喜ぶんだって」 「汚くないすよ。高校生の野郎の部屋なんてあんなもんす」 「君が好きだよ。もうちょっと情緒あったらいいなあなんて思ったりもするけど やっぱり情緒のない君のほうが好き」 「今更すか」 そう言って笑う君の顔を見て、君の相手がこのボクで、 ボクの相手が君でよかったとつくづく思ったよ。 |
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