さよなら派遣組


「わかってんだろーな?」

ケジメ。ヤンキーさんの世界にそんなモノがあることを知ったのは最近だけど、覚悟はしてきた。

「ああ・・・好きにしろ」 

こうなることはわかっていて、すべてをぶちまけたんだ。
ボクがオタクだってこと。ほんとうはヤンキーなんて苦手だってこと。
みんな驚いてたけど、証拠の同人誌見せたら怒り出した。当然だよね。

「俺たちをだましてくれた罪は重いぜ!」

どうでもいいけど、この舎弟くん、名前なんだっけ?
見ない顔だけど、こういうの専門の人なのかな?
鼻にピアスしてるから「牛さん」にしとこう。
牛さん(仮名)は、無抵抗なボクのベルトをカチャカチャと外してズボンを引き下ろした。

「なんだこりゃ・・・オイ見てみろよ」

あおむけにされたボクのソコに視線が集まる。
「うわ、ちっちぇー」とか思われてるんだろうな・・・。

「大方、百人斬りもホラだろ!こんなもんでできるわきゃねーよな・・・」

牛さん、調子乗ってきたらしくて、ボクのソレをかかとでぐりくりしている。
痛い、痛いけど、きっとこんなもんじゃすまない。

牛さんにいたぶられながら顔を上げると、後ろのほうで腕を組んで様子見をしている火讐くんと紋武くんの姿が見えた。
内心はらはらしているのが伝わる。

あ、火讐くんの唇が「兄貴・・・」という形に動いた気がした。

でも、すぐにぎゅっと目を瞑ってしまう。 

痛い。彼のそんな顔を見ているほうがずっと痛い。

すぐに目を開いて強気な表情を作る火讐くん。

「あいつはもうオレと何の関係もない。赤の他人だ!」 
「それが・・・けじめだ」

きっと君はこう自分に言い聞かせてるんだろうね。
でももうその顔は泣いているよ。

牛さんはボクを四つんばいにした。
やっぱりされることはそれみたい。

「ちっ。軟弱な尻してやがる・・・」

牛さんボクのお尻を叩く。
ぺちぺち、といい音がするのが場に不釣合いでなんだか滑稽だ。

「でも味は良さそうだぜ・・・ほら、火讐」

え?

「お前もこんなへたれにつっこまれてばっかいねーでつっこめよ。
お前に譲ってやるからよ」 

なに?なんだって?

牛さんにやにやしながら火讐くんとボクを交互に見ている。
ボクだけじゃなく、火讐くんまでいたぶるつもりなんだ。

「・・・いや、オレは・・・」

彼らしくもない、消え入るような声がいたいたしい。

「できねーってのか?こんなへたれでも抱かれて情が移ったってやつか」

ひどい。やめてやめて。火讐くんを辱めないで。
 
「無理にとはいわねーや。じゃ、オレがいただきまーす」
「だめっ・・・!」

ああ、この声は。

「だめだ。兄貴に手を出すな!」 

だめだよ火讐くん!

「なんだぁ?おめーも同じ目にあいてーのか?」
「やるならオレをやれ!」

ああ、言っちゃった!
ボクが一番恐れていたことが現実になっちゃった。

「その代わり兄貴は見逃してやってくれ」 
「か、火讐・・・」

ぐっと顔を上げる。決意は固まった。今の火讐くんの行動で。

君はどこまでも根っから男前だよ。

「いいんだよ、火讐くん・・・」

この笑顔は強がりなんかじゃない。

「兄貴・・・」
「悪いのボクだから・・・君が傷つくことない」

「君を・・・いっぱい、傷つけてごめんね・・・」

「もうボクのために傷つかないで・・・」

火讐くんの目に雫が盛り上がる。
君はほんとうに綺麗な涙をボクのために惜しまないんだね。

「やるならさっさとやれ」

「兄貴・・・」
「ちっ。見せ付けやがって」

牛さんつまらなそうに見ていたけど、これが仕事とばかりにボクの腰をつかんだ。

「お望み通りにしてやるよ。そらっ」
「ああ・・・っ」 
「やめろーーー!」 
「火讐、目、つむってろ・・・大丈夫、だから・・・」

「オイの鋼鉄の尻がこんくらいで・・・ううっ・・・」

「う、う・・・」

火讐くんはもうぽろぽろ涙をこぼしている。
その肩を紋武くんがそっと抱く。

「けじめなんだ・・・」
「わかってる・・・」

必死でこらえているうちに、とりあえず一人目は終わったらしい。

「おい、次誰がやる?」 

牛さんの呼びかけに応えるものはいなかった。

「オレ、いいや・・・」
「オレも・・・」

みんな顔を伏せてしょんぼりしている。
馬刺しくんなんて隅っこでしくしく泣いている。

「もうやめよーぜ」

そう勇敢な誰かが声にした。

「だって、こいつだから、ここまでやれたわけだろ?」 
「オレ、こいつ好きだよ・・・」 

ああ、みんな・・・。
ボクをかばってくれるんだ・・・。

「なんだよ。しらけるな」

牛さん、ちっと舌打ちしてボクを突き飛ばした。

「気がのらねぇ。やめた」

さっさと身を引く。
お仕事ご苦労様、とねぎらいたくなるくらい完全に悪役に徹してたよ。

牛さんの退場と同時に、舎弟たちがぽつり、ぽつりと近寄ってきた。

「兄貴、大丈夫ですか・・・?」 
「要次・・・みっともない姿見せてすまんな」 
「早く服着てください」

あいかわらずの女房役の仕草でそっと学ランをかけてくれる。
そんなにされたら、バレてるんだけど、つい兄貴になっちゃう。

「いいんです、もう・・・」

君は優しいよ・・・ほんとうに。

「兄貴は兄貴です・・・今でも」 

うんうん、と涙ぐみながらうなづく舎弟たち。
ヤンキーさんではあっても、すごく情に熱いひとたちなんだよね。
君たちとお別れするのは悲しいよ。

せめて最後は笑っていよう。
きちんと兄貴の長ランをつけて、しゃんと背を伸ばして。

「みんな、ほんとうにごめんなさい」
 
「みんなのことは好きだった」 

「さようなら・・・」

「兄貴・・・行っちゃやだ」 
「兄貴ーー!」

舎弟たちが号泣している。
ボクは振り返らない。
しっかりとした足取りで倉庫をあとにした。


翌日、ブレザーに眼鏡で登校したボクに、舎弟たちは目に見えてがっかりしていた。
いつかボクのことなんか忘れていくよねみんな・・・。

いいんだ。これで。長い夢は終わったんだ・・・。
悪夢のような時もあったけど、終わってみたら、いいこともたくさんあった。 
ボクは後悔してないよ・・・。

ひさしぶりの一般生徒と同じ時間の帰り道、
ちょっと立ち止まってなつかしい派遣部室を見たりしながら歩いていたボクを、
校門の前で待っていたのは

「兄貴」
「火讐くん!」

火讐くん、ボクを見つけるとぱっと笑顔になった。
それがあまりにいつもと変わらなくて、ボクはどきまぎしてしまう。

「火讐くん・・・ボクは・・・」
「謝るならやめてください」

火讐くんはボクの弱気な言葉を拒んだ。

「悪いのオレっす。オレの理想を勝手に押し付けて・・・迷惑だったでしょ?」
「そんな、迷惑だなんて・・・」 

そう思われているのなら正さないと。
それだけは違うって言わなくちゃ。

「ボク、君が望むような男になりたくて頑張れたんだ」 

「君がいなかったらボクは弱虫のボクのままだった」

「ありがとう。・・・好きだったよ、火讐くん」 

ボクの告白を火讐くんは静かに聞いていた。

「・・・だった、ですか?」

短い、でもたぶんたくさんの思いが込められた問いかけ。

「・・・好きだ。今でも」 

「でもボクは君を・・・」
「もういいっすから」

火讐くんはきっぱりと、ボクの目を見てこう言った。

「これからは、兄貴でも舎弟でもない。対等の人間としてつきあってほしいっす」

「・・・・・・敬語」

笑った顔を作ったつもりだけど、きっと泣き笑いになってる。

「ああ・・・」

火讐くんもくすりと笑って。

「つきあってくれ・・・団吾」

ああ、綺麗な顔。それが見たかったんだと今わかったよ。

「よろこんで」 

今度はボクもちゃんとした笑顔になってるはず。だってこんなにしあわせなんだもん。

「でも、がっかりするよ?」 
「してもいいです。全部見せてほしいっす」
「ほら、また」
「あ、いけね」 
「じゃあね、ボクのうちきて・・・火讐くんに見てもらいたいもの、たくさんある・・・」

うんとオタグッズ見せちゃうから。
ドン引きしても受け入れてくれるよね?
ボクの一番情けない姿さえ、嫌いにならないでかばってくれた君だもの・・・。 
その結果、立場が逆転しても、君にならいいよ・・・。

団火団エンドです



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