こどもが成長するのは早いです


「お、団吾じゃねえか」

いつのまにか切れていた消しゴムを求めにコンビニに駆け込んだ帰り道、
普段着の団吾とばったり顔を合わせた。

「あ、茶越くん・・・て、どうしたの」

その首に夜目にも不審な痣を発見し、近くに寄ってまじまじと見つめる。

「これ、すげぇ目立つぞ」

指で、くっきりと残る痕をなぞる。
見せ付けてくれるじゃん。こっちはおとなしく宿題やってんのにさ。

「明日どうすんの。詰襟だとわかんないけど、体操服だと丸見えだぞ」
「あ、やっぱり。まずいな、とは思ってたけど」

団吾はそんなに恥ずかしそうでもなく、へらりと笑う。

「バンソーコでも貼ろうかな」
「ひゅー。男の勲章じゃん!この分だと体中痣だらけかぁ?」
「いやぁ」
「そうなの?」

はぁ、と大げさなため息が出てしまう。
声を落として耳元で囁く。

「お前もすこしは拒んだらどうだ?」
「いや、それ、無理やりされてるの前提みたいじゃん」
「そうだろ?」
「違うよ」
「マジ?!」
「最初はそんな感じだったけど・・・最近は大体ボクのほうからだし」
「マジかよ・・・のしかかられて最後の一滴まで搾り取られてるのかと思ってた」
「そんなイメージ!?」
「お前あっちのほう弱いのにかわいそうに、とまで思ってた」
「酷すぎる・・・いや、でも、そうかな」
「まさか、あちらさんのほうも同じような状態だったり?」
「どうかな?ここまで酷くないと思うけど。わかんない」

んんーー、と大きく首をひねって、真面目な顔を作る。

「お前さ、最近すげぇオープンみたいだけど、大丈夫なのか?」
「あんまり大丈夫とはいえないかも」
「お前そんな笑ってるけどさ・・・今はいいだろうけどさ・・・」
「わかってる」

あくまでやわらかい物腰は以前のコイツと変わらないんだけど。

「番長で、百人斬りしてるの前提だから男とやってもカッコイイわけで、
ふつーの高校生なら、ただのヘンタイだよね」

そう、オレが心配してたのはまさにそれ。


「でもね、もういいの。今を大事にしたいの。
たぶん期間限定だからね・・・兄貴でいられる間の。
素のボクを知ったら絶対絶対幻滅されるから・・・。」

「あー、でも、ばれても、お前とそうなって損したなんて
絶対言うタイプじゃないだろ」

静かな口調に、あたふたとフォローしないではいられない。

「そのへんは安心してます」

ふふ、と笑う。
ちょっと前とは明らかに違うなぁ。

「嫌われなくてもこの関係ではいられないからね、やっぱり。
そう思ってるからやさしくなれるし、全ての情熱をそこに注げる」

ああ、オレの知らないこいつになっちゃったんだ。

「こういうの、オタのボクでは一生味わえなかったと思うし。溺れてたいの」
「散り際まで激しく燃え上がる、期間限定の激しい恋か・・・」
「そんな感じ・・・かな。あらためて言われると恥ずかしいけど」
「今更照れるな。はー、そうか、ふーん・・・」

強い決意を込めて、団吾の両手をがっしりつかんだ。

「応援する」
「アリガト」
「死なない程度にガンバレ!
って、よく見ると歯型ばっちりついてるし。洒落にならないんですけど」
「いや、いつもこんなってわけじゃないから。
舎弟の前で『女待たせてるから』って言ったのに怒っちゃって」
「やきもちにしちゃ激しすぎだろ・・・殺されるぞ」
「いやー、最初は噛み付かれて悲鳴あげちゃったけど、
『百人の女よりお前がいいって。わかってるはずだろ?!』
って攻めてたら攻守逆転して最後には泣いちゃったからわりと平気だよ?」
「・・・やめて。やっぱ、いいわ、それ、キツい・・・」
「そう?」

団吾、お前、強くなりすぎだ・・・。



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