今年の恵方は東北東
「はい、兄貴」 お昼休みの派遣部室。 馬刺し君が、いつものようにウキウキと団吾の前に広げたのは、 立派な恵方巻。 そう、今日は二月三日、節分の日だ。 「これは美味そうじゃな」 「七福神にあやかって、七種類の具材を使ってみました」 「いいなぁ、団吾」 オレとタトゥーくん、紋ブランさんも団吾を囲んで弁当を広げ、 和気藹々と昼食になる。 「ん、火讐、それちょっと量多くないか?」 紋ブランさんの声に、全員の視線がタトゥーくんの手元に集中する。 「お前も作ってきたんじゃないか?」 「見るなよ」 特大サイズの弁当箱に、こぶりの太巻きが綺麗に並んで入っている。 タトゥーくんはばつが悪そうにそれを隠すような仕草をした。 「いいんだよ。要次のがうまいし、兄貴には美味いもん食べて欲しいから」 んー、実際、タトゥーくんが同じことやっちゃうと、 ちょっと気まずい雰囲気なっちゃうよな・・・。 でも、けなげだよね。ちょっとほろっときた。 「あ、その、ほんと、なかなかいないよ。 こんだけ愛・・・その、大事な人に尽くしてくれる人って」 「オレは、兄貴が俺の作ったもんを食べてくれるだけでしあわせッすから」 ほんとうに幸せそうに言うんだ。 ひょっとして、タトゥーんの最大のライバルって馬刺しくんじゃない? 「オレよりけなげだな、お前」 「そんな・・・」 「兄貴、こいつになら、一回だけならいいっすよ」 「えーーーー!」 そんな簡単に!?しかも絶対ありがたくないし! 「な、なにをっ」 突然の事態に、馬刺し君、真っ赤になっている。 「オレは、兄貴と・・・なんて、考えただけで震えが来ちゃってだめっすよ」 あれ?照れてるよね・・・照れてるってことは、まんざらでも・・・ いや、あんま想像せんでおこ。 「そういうのは、火讐にまかせるっす」 かわいい、かわいいよ馬刺し君・・・!! この外見でありえないけどかわいよ・・・!! 「あにきと・・・そんな・・・どういうことするんだ?」 聞いちゃうんだ! 「なんだお前知らないのか?裸になって抱き合うんだよ」 で、答えちゃうんだ! いくら内輪だけとはいえ、昼飯中にする話じゃないぞっっ! 言っちゃうの?言っちゃうの?ねえ・・・。 「んで、首とか耳の後ろとか噛んで・・・」 「わーーーーーー!!!」 馬刺し君、真っ赤になって耳を塞いだ。 こう見えてハケン組一の乙女っ子だからね。 どうでもいいから止めるなよ!あれ?オレうずうずしてる? 「一方的な行為だって思ってるだろ?違うぞ。与え合うものなんだ」 な、なんか実感のこもったお言葉・・・。 「相手のキモチイイことをしてやる。やるもやられるもない」 さ、さいですか・・・はぁ。 「で、」 「で!?」 「興味津々だな」 「う・・・オレだって男だもん・・・」 あれ?オレ目悪くなった?馬刺し君がかわいすぎるんですけど。 「これ以上は言えんな・・・」 タトゥーくんもなんだか弄っているようですぞ。(ちょっと御宅田調) かわいい子はいじめたくなりますよね。わかります。 「えーーーー言ってよ!」 「知りたいか?」 「うんうん」 お前ら仲良しだな! さっきまで知らない顔をしていた紋ブランさんもにやにやしてる。 「やっぱり言えねぇ。あとは兄貴に聞け」 「えーーーー!」 一番ヤバいとこ、ひとに振るなーーー! まあ、団吾兄貴の口から聞いてみたい気もちょっとするけどよ・・・。 「あにき!」 「男はみだりにはしたないことを口にするもんではない!」 全員の熱い視線を一身に浴びてなお、団吾の兄貴は毅然としている。 「そこは、秘めてこそ華だ!」 ちょ、かっこいい・・・・・・! 「火讐の愛を受け止め、オイの愛を受け取ってもらう、大事な時間じゃからな!」 「あにき・・・」 きゅんてなってる、きゅんてなってる。 馬刺し君だけでなく、タトゥーくんも、紋ブランさんも、 あれ?いつから聞き耳立ていたの?派遣組の皆さんまで。 兄貴はやっぱりカッコいい、ということで目出度くお開きになりました。 あぶねーあぶねー。一時はどうなることかと思ったよ。 「やっぱうらやましい・・・」 後片付けをしながら、馬刺し君がこうぼそっと呟いたのをオレは聞いてしまった。 「でも、オレなんかじゃ・・・やっぱ無理だ・・・」 両手で胸を抱いて身もだえする馬刺し君。 「兄貴の手が・・・想像するだけで!」 キモい・・・!とは言えない。言っちゃダメだオレ。 団吾の兄貴、またひとり落としてしまったよ・・・。 まったく罪なお人ですこと! そういえばみなさん、恵方巻ちゃんと恵方向いて食べたっけ? 「兄貴には食べてもらえなかったが、オレはしっかり頂く予定だ!」 あーはいはい、わかりました。 ていうか、やっぱ嘘だろ!譲る気なんかこれっぽっちもなかったろ! 節分だから(理由になる?)幸せのお裾分けしてあげたわけ? いらねーよそんなサービス!!ふんとにもう! |
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