木の実を甘くする方法


こいつはいつも、終わったら即そっぽを向いてしまう。

起き上がってなにしてるのかと思ったら軽い金属音とともに
覚えのある匂いが鼻をくすぐった。
オレがやめていてもまったく気にしないんだから。
まあこいつらしいが。

お互いに絶対に気なんか使わない相手。だからいいわけだけども。

「よせよ。背伸びねーぞ」
「余計な世話だ」
「やめろって」
「これの味教えたのはオメーだぜ。口移しにな」

なんてさらりと言われて頬に血が上る。
随分悪いこと教えてしまった。
御手洗に悪い、と言える立場じゃないか。さすがに。

「ここでしか吸わないからいいんだよ」

振り向いた姿が絵みたいだったからかもしれない。
まるで儀式のようだ、と柄にもなく思った。
キスはなつかしい味がした。

「匂い、簡単に消えないぞ」
「わあってる」
「舎弟にバレるぞ」
「別にいい」
「御手洗も気づく」
「それはちょっと困る」
「だったら自重しろ」

わざわざ匂いをつけて歩くのは悪いことをしてますよ、
と宣伝しているようなものだ。
見つかったらいけないことをしながら、自慢しないではいられない。
そんな気持ちはオレにももちろん覚えがある。

ごめんな、御手洗。悪いのは多分オレ。

「お前こそ自重しろ。オレをあんまり」

あんまり、なんだよ。ちゃんと言えって。
スレスレの言葉を囁いて、崖から落ちるギリギリのところで戯れて。
禁断の木の実をさらに甘くする。
オレだって人並みの罪悪感くらい持ち合わせているつもりだったけども。
この行為が楽しくてたまらないのはもう、人の業、って気がする。




バリハケンSSトップへ