初心
思えばワン公さんたちのおかげだよね。 ボクたちがこうしていられるのは。 人生ってなにが起こるかわからない。 あの時、火讐くんのボクへの思いが最高潮に達したのが伝わったもの。 あの泣きそうな、切なそうな顔。 だから、火讐くんの家で傷の手当てしてもらいながら、 「下も脱いでくだせえ」 と言われたときも逆らえなかった。 下には怪我なんかしてなかったけど・・・。 「あにき・・・」 火讐くんの手が下着の上からそっと触れる。 「あにき・・・すきです・・・あにき・・・」 頬擦りされても、払いのける気にはならなかった。 「してください・・・オレを、あにきのものに・・・」 火讐くんの思いはダイレクトに伝わってくるから胸に来る。 「オレはどうなってもいいです・・・終わったらすぐ死んでもいい。 一回だけでいいです」 ああ、泣きそう。 「あにきと一緒になれたら・・・」 そんなこと言われて、だめなんて言えるわけないよ・・・ ボクだって男だもの・・・。 「かしゅう・・・オイにすべて、まかせてくれるか・・・?」 「はい・・・」 で、なんとか終わってから、 「あにき・・・」 「ど、どうした?」 「しあわせです・・・」 「そ、そうか。オイもじゃ」 ものすごく心配だったからホッとした。 「案外、痛くないもんすね・・・」 「そ、そうか」 うん、ちいさいからね・・・・・・とは言えない。 「お前の心がオイを受け入れててくれたからじゃ・・・」 「恥ずかしいす・・・でも、ほんとに痛くなかったっすよ? むしろちょっと気持ちいい・・・かも・・・」 「愛の力じゃな!」 自分で言ってて死にそうな台詞だけど、 火讐くんは絶対引いたりしないんだよなあ。 それどころかちょっぴり涙さえ浮かべている。うう、心苦しい。 「あにき・・・今度はオレが、兄貴を気持ちよくさせてあげたいです・・・」 ああ、やっぱりキタ! ボク、実は服も脱いでなかったの。 ひょいと触られたり、それ以前に感触でやっぱりわかっちゃうだろうから。 「あ、いや、いい!オイはもう十分満足したから」 「オレの気がすみません!させてください!」 うん、火讐くんはおとなしくされるがままになっているタイプじゃないとは 思ってた。それにしてもあんまり大胆すぎやしないですか。次の台詞は。 「オレ、いつも想像してました・・・兄貴のを握って、口に入れるの・・・」 どんなサイズでですか・・・。 「全部は入りきれなかったけど・・・」 どんなすごい期待してるの・・・・・・。 「火讐、オイは好きなやつにそんなことはさせない主義じゃ」 あ、その場しのぎとはいえ、我ながらちょっと上手い言い訳かも。 「じゃあせめてキスだけでも」 「だめだ!」 あくまで拒み通すボクに、火讐くん、ちょっとうらめしそうな顔をしたけど、 「はい」とおとなしく胸に擦り寄ってきた。 ごめんね、火讐くん。意気地なしで。 「幸せです」 うん、ボクも幸せ。 だからこそ、今君に嫌われたら生きていけない気分なんだ。 でも、気負いすぎだったよね。 「酷いっすね。オレがそんなことで兄貴を嫌いになると思ってたんすか」 はい、反省してます。 「そんなもんどうでもいいんですよ。兄貴は兄貴であるだけで、 周りにすごく色々なものを与えてくれるんだから」 誉めすぎだよ。 「あの時、オレ、兄貴のためならなんだってする、 一言言ってください炎の中にだって飛び込みますって思ったけど、 今でも同じ気持ちですよ」 だめだよ、もうボクのために無茶しないで。 前髪に唇をつけて囁くと、しなやかな腕が首に回った。 「オレだけでなくほかの舎弟達も、兄貴のおかげで幸せなんです。 憧れの人がいつも身近にいて、伝説を作ってくれるんですから」 え、そうかなあ。照れちゃう。 「一番幸せなのはオレですけど」 違うよ。一番はボク。君は二番かそれ以下。 なんて、恥ずかしいというかもう、ふたりで面目ないことになってしまったり。 人生ってほんと、なにが起こるかわからない。 ワンちゃんとは言わず、もう、すべてのものに感謝しちゃう。 |