強く生きろ


「ああ、もうっっ」

オレはこぶしを握り締めて絶叫した。

「毎日毎日毎日励んでいてもひとつも面白くないっっ」
「あたりまえだ。おなにぃなんだから」

正論である。

「実際のところ、セックスだってやってりゃ飽きるだろ」
「やる前からそんなことを言ってどうする」

つくづく思うが、こいつは夢がない。

「これだから半端イケメンは」
「お前もだろ」
「いっそブサイクなほうが人気も出てフルネームもらえたかもしれないのにっ」

そんなむなしいやりとりにも飽きて、オレはイライラと己の欲望の源を見下ろす。
物理的には手を伸ばせば触れられるあの人との距離は
なんでこう遠いんだろう。
あの人をおかずに、オレは日々妄想を逞しくしている。
だが、オレのすくない知識では、いや少なくもないかもしれないな。
オレはこれでも極めてノーマルだ。
エロ本も見たしAVもこの年の野郎としてはじゅうぶん見たと思う。

「そんなんばっか見てるからそんなことばっか考えるんだろ。
真面目になれ、真面目に」

またも正論である。禁エロ本をしているとあまり欲望を感じなくなると
聞いたことがある。
それはともかく、その妄想がいつもいつも同じなのが情けない。
よくもまあ、毎日毎日同じネタで興奮できると思う。
それというのも、AVだのエロ本だのというものが、
教室で、屋上で、保健室で、廊下で、女教師と、クラスメイトと、後輩と、先輩と、
いろんな場所で、いろんな相手とやってるにもかからわず、
行為そのものはまったく同じ、相手の反応も同じだからだ。

「いじってアンアン言わせて舐めさせて入れて出しておしまい。
お前らには想像力ってもんがないのかっっ」
「お前に言われたくないって」
「ああ、もっと多様なおなにぃがしたい!」
「結局おなにぃか!」
「そのためにオレは考えた」
「あまり聞きたくはないが、聞いてやる。なんだ」
「オレは、火讐さんにすこしでも近づきたいと思う」
「もうすでにいやな予感がするんですけど」
「友として、お前に頼みたいことがある」
「聞いてやれるのはオレしかいないんだろうな。なんだ」
「火讐さんの尻だと思って入れてくれっ」

一世一代のオレの告白に対する、友の応えはといえば。

「お前、ホンモノになるからやめておけ」

意外にも冷静なものだった。慣れとは恐ろしいものだ。

「いやだっ。火讐さんと同じ快感を知って、火讐さんと一体化するんだっっ」 

そんなことを叫ぶオレは、もうホンモノに片足突っ込んでると思う。

「なあ、火讐さんに頼んで一回だけさせてもらうわけにはいかないかな?
死ぬ気で頼めば一回くらいならさ」
「黙れ。あのひとはそんな尻軽男ではないっっ」 
「だめだこりゃ」
「さぁ!」
「絶対イヤです。むしろ、死んでもお断りのレベルです」
「オレの尻にはつっこむ価値もないのか・・・!
それに比べてあのひとの尻はすごく上等に違いない・・・!!」
「ま、強く生きろ」




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