あやうい関係 


女装は何度もしてきた。
ぶっちゃけ、得意分野だったりします。
でも、こんなに緊張するシチュエーションは今までなかった。

水色と赤のセーラー服は某ラノベキャラのコスプレに一度だけ使ったんだけど、
取っておいて良かったよ。
短いスカートはまったく存在感がなく、お尻が直にシーツに触れているみたいで気持ち悪い。
ベッドの上でもじもじしているボクを火讐くんが目を細めて見つめている。

「すごくかわいいです」

いや、そんなはずないよね。普通に考えて。

火讐くんの手が触れてきた。
軽くウェーブをつけ、飾りピンで留めた髪を撫でる手はやさしいけど、
その愛撫はボクに与えられているものじゃない。
そう思うとちくりと胸が痛む。ボクはうつむいてしまった。

「ほんとにいいんですか」

心配そうな彼にボクは微笑んで見せた。
いいんだよ。火讐くんは立派なオスだもの。
いつものじゃ、オスの本能が物足りないんだね。

だって、見ちゃったんだもの。
火讐くんのカバンに入っていたものを。
どれも満面の笑顔で、よく撮れているな、と感心して見ていた
ボクの笑顔はやがて凍りついた。
濡れたシャツ一枚だったり、背中だけでなくお尻が半分見えてたりする、
目のやり場に困るようなしどけない姿のチョコたんの写真を。

そのとき、ボクは思ったんだ。
これはいけない。断じていけない。
じゃあボクにできるのはなんだろうって。

「ボクでよければ、君の好きにして」

チョコたんとは似ても似つかないけど、という言葉をぐっと飲み込む。

額に、頬に、唇が触れる。首に触れられると、我知らずびくっと震えてしまった。
はっと身を離した火讐くんを慌てて押しとどめる。

「怖くないよ。火讐くんだもの」
「あにき・・・」
「余計なものがついてるけど女の子だと思って」
「余計なものだなんて」
「でも、ちょっと」


こんなこと言うつもりなかった。ちゃんと覚悟したつもりだった。
なのに。

「火讐くんがほかの人のこと考えながら、ボクにするのは、ちょっと、悲しい、かな」

我慢してないと涙が落ちそうになる。ボクって弱いな、ほんとに。

「兄貴!」

がし、と肩をつかまれて顔を上げる。
火讐くんの、泣きそうなくらい真剣な顔が間近にあった。

「すいません。すいませんでした!オレはばかだ!」

噛み付きそうな勢いでそう言って何度も頭を下げる。
首が抜けるんじゃないかと心配になるくらい。

「オレはこれがついてないヤツなんか抱きたくない!
これがついてる兄貴だから好きなんですっ」

あ、あの、あんまり握らないで欲しいんですけど。

「気を使ってくれなくていいから・・・
ボク、こういうかっこう、抵抗ないし・・・」
「いいえ!兄貴が一番映えるのは、白フンです!」

なぜここに白フンが出てくるんですか!

「白フンでいきましょう!さあ!」
「う、一気にガチ方面へ・・・でも好き」

がしっと抱き合う。

「兄貴に悲しいなんて言われたらダメです。心臓が潰れるかと思いやした」

ボクの肩の上でつぶやく声を聞いた時、
たまっていた涙がぽたりと落ちた。

「兄貴が悲しむ姿は見たくないです」
「火讐くん・・・」

気づかれないうちに手でぬぐって、へへ、と笑いあう。

「でも、火讐くんがとってもオスの気分のときはしてもいいからね」
「わかりやした。次の満月の夜は、ありがたく兄貴の尻を拝借しやす!」
「悟空かっ!」

あとで聞いたら、チョコたんのあれはあんまり際どいから没になった
グラビア用の画像だって。
なぁんだ。でも、そんなもの持ち歩く兄ってやっぱりヘンじゃない?
勿体無いからって・・・ひょっとして、
さっきのってすごく洒落にならないシチュじゃなかった?
ねえ、ちょっと、火讐くんたら!





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