いいこと言った
「かわいかったな。火讐さんの妹さん」 「ああ」 釣り目でまつげが長くて、眉が細くて、口元はぽっちゃりしてて・・・。 「火讐さんが女だったらあんな感じかと思うと萌える」 「そんな観点で萌えてもらってもうれしくないだろうよ。 てか、どう考えても違うだろ。気合の入ったスケバンだろ」 「スケバン・・・だめだ!まるで萌えん!」 「なんで?釣り目猫顔系でかわいいかもしれんぞ」 「やっぱり火讐さんは火讐さんであるからこそ萌えるんだ!」 「さいですか」 相方のなげやりな態度には構わず、両のこぷしをにぎる。 「今夜も激しい手首のスナップで家を揺らすぞ!」 「お前さ、妄想ばかりしてないでぶつけてみたらどうだ?」 おや、珍しく真面目な顔だぞ。 「死ぬ気でぶつかっていったら火讐さんなら応えてくれそうな気がするぞ。 なんだかんだいって面倒見いい人だし」 「うっすらそんな気もするな」 あの人は、なんといっても男らしい人だから、 あんまり自分の体なんか執着なさそうな気もしないでもなかった。 「でも万が一、そうなった場合、お前、やれるか?」 すごく失礼な質問だが、オレは即答した。 「使えるかどうかびみょうなところだ」 「うれしくなるくらいダメ男だな」 ああ、自分でもそう思う。 「正直、殴ってくれるほうがありがたい」 「ついにMに目覚めだよ」 違う。Mじゃない。ついでにいうとホモでもない。 「いたってノーマルなはずなんだけど、火讐さんはやっぱり火讐さんでないと!」 えらそうに宣言する。 「そりゃ抱きごこちはだんぜん女の子のほうがいいと思うけど」 「女なんか全然知らないくせにナマイキ言うな」 痛いところついてくる。 「正直、男同士ってどうだろう。マジで考えて」 「今更か」 「抱き合ったら余計なものが当たる気がするんだが」 「それ、今気づいたの?」 リアルに考えたくなかったんだよ。 「その時点で萎えそうな気がする」 「それが気にならないくらい愛し合ってんだろ」 む。それじゃオレのは愛じゃないみたいじゃないか。 愛はあるんだ。ただ、なにかが足りない。なにかが。 「そのとおりだ」 聞き慣れたよく通る声に飛び上がりそうになる。 「火讐さん!」 「オレは兄貴だからああいうことをするし、 兄貴だって普通尻にああいうことはしない。 そうでしょう?」 突然同意を求められて兄貴は一瞬引いたようだ。 「いや、その、そうです、もちろん」 自分たちをネタにしてたのはおとがめなしなんですね。 あいかわらず男らしいぜ! 「ですよね!オレは兄貴のならふやけるまで舐めるが ほかの野郎のは一千万もらってもやらない! それが愛だ!」 な、舐めてるんだ。それもふやけるまで・・・いいオカズ頂きました。 火讐さんの情熱熱的な台詞に兄貴も感動したらしい。 「オイだってほかの男の尻に入れたいなんて思わん!」 火讐さんに負けないくらい力強く宣言する。 「お前の引き締まった小尻でないと入れる気にならん。まったくな」 「オレだって、兄貴のちっちゃくてぷるぷるの・・・」 がしっと手を組み合い、見詰め合って、既にふたりの世界。 だが、長くは続かなかった。 「お前らののろけ合いは、ここにいるやつらには耳の毒だぞ」 「いつからいたっっ」 そこにいたのは紋武さんと舎弟達。 頬を染めてうつむいているものもいれば、目を輝かせているものもいる。 どちらにせよしっかり耳に入れたに違いない。 「オレも兄貴の笛を吹きたい!」 「お前ら同士でやってろ!」 あとはいつもの漫才。 でも、今日は進展があった。 「足りないものがわかった」 「なになに」 「欲しがってばかりじゃダメなんだ」 考えてみると、愛してる愛してると言いながら、 火讐さんの体なんてどうでもよかった気がする。 「自分が執着しないと相手も執着してくれない。 自ら愛さないと。火讐さんのように」 「お前、初めていいこと言った」 「とりあえず、火讐さんの体に欲情できるように頑張ってみる」 「台無しだっ」 |