ほのぼの兄妹
最近、おにいちゃんがへん。 毎日毎晩、アルバムのようなものを見てはため息をついている。 ちらっ、ちらっと紙面に視線を這わせては、後ろめたいことをしているみたいに、 周囲を見回し、またちらっと視線を戻す。 途端に真っ赤になって口を手で口を塞ぐ。 その様子がすごく面白くて、ちょいちょい覗き見てしまう。 私はそれがなんだか知っている。 前に、お布団干してあげるときに枕の下から出てきたから。 ぱっと開いて、一面肌色でびっくりしたけど、 よく見るとどのページも同じ人の写真だった。 表紙を見ると、「兄貴」写真集だって。 この人が、おにいちゃんが自慢している「兄貴」かあ。 そのときはそれほどとは思わなかったけど、 最近は明らかにヘン。 ああ、また。 おにいちゃんの唇が「あにき・・・」という形に動いた。 そして苦しそうなため息。 見ていて胸が締め付けられそうになる。 ああ、これは、間違いない。 明日はお母さんが遅くなるって言ってたからちょうどいい。 私だけでもお祝いしてあげなくちゃ。 「ん・・・?」 テーブルの上のお赤飯を見て、お兄ちゃんは不思議そうな顔をしている。 ふふ、わかってない、わかってない。 ちょっと考え込んでいるみたいだったけど、 やかて、意を決したようにキッと私の顔を見た。 「知世・・・おめでとう」 なにを思ったのか、両手で私の手を握る。 「なにが?」 首をかしげる私に、頬を染め、照れ笑いしながら言い難そうに、 「お前、あれだろ、その・・・」 「あ!」 とんでもない勘違いに気づいて顔が熱くなる。 「ばかっっ。私のことそんな子どもだと思ってたの!?おにいちゃんのだよ! 二年前お赤飯炊いてもらった時おにいちゃんもいたでしょ!」 お兄ちゃんは、なぜ怒鳴られたかわからないみたいで、 「あ・・・そうか。スマン」 だって。 「もーーばか。硬派の癖に」 私のことちゃんと考えててくれてんだと思うと、 ちょっと嬉しいけど、やっぱり恥ずかしいよ。 「で、なんの祝いだ?オレのって」 「おにいちゃんの恋」 「な!」 予想通り、かあっと音がしそうなくらい一気に真っ赤になる。 「なななななな、なにを言ってるんだっっ」 あーあ。そんなんじゃ、気づいてないのはおにいちゃんだけだよ。 「今度、紹介してよ。私応援するから」 「ばばばば、バカ言うなっ」 「さ、食べて。尾頭付きじゃなくてハンバーグだけど」 おにいちゃん、しぶしぶといった様子でお箸に手を伸ばす。 いただきます、で、しばらく、ふたりとも黙々と租借する。 「目出度い、のか・・・?」 「おめでたいよ」 「そうか?」 「うん」 私はお茶碗に目を落とす。 荒れに荒れていたほんのすこし前に比べたら、ずっといい。 「お前がそう言ってくれるのなら、そうかもな」 え、と顔を上げると、もう晴れ晴れとした顔でお茶碗を両手で持って、 「うん、美味い」 そう言ってくれた。 「おにいちゃん」 キュウッと胸が締め付けられる。 ちょっとおかしいかもしれないけど、 なんだか、なんだか、すごく、好きだなあ。 |