昼も夜も専制君主 


「お」

ハケン部室の手前で、モンブランさんとぶつかった。
オレの顔を認めて目を細める。

「かわいいじゃん」

カチューシャのリボンにちょっと触れてにやりと笑う。

「でしょ?せっかくだから団吾を誘惑してやろうと思って☆」
「そうか。しっかりやれや」

幸先いい。
オレはうきうきとドアを開き、普段より一オクターブ高い声を作る。

「だーんご」

奥の席でDSをやっていた団吾が顔を上げる。
都合よく一人きりだ。

「ん?」

団吾の眉が寄る。

「なにその格好」
「えへへ。かわいいだろ」

くるっと回ると、短いスカートがふわりと広がる。

「茶越くん、それなんのコスプレか知ってるの?」
「知ってるよ。SOS団だろ。アニメ観たし、ラノベも読んだ」
「ふうん」

気のなさそうにそう言うと、「ならよし」と再びDSに目を落とす。

「なに、そのテンションの低さ!なんかいうことあるだろ!」
「お○○○○ついてる立派な男の子のすることじゃないね」
「お前に言われたくねえ!」

つい怒鳴ってしまった。いかんいかん。せっかくこんな格好してるんだ。

「だーんご」

団吾が肘をついている机に両手をついて、
精一杯挑発的に小首をかしげて、

「見て見て。ほら」

大儀そうに顔を上げる団吾の目の前で、
スカートをまくってやる。
む。団吾のヤツ、あろうことか顔をそらしやがった。

「キョン!ちゃんと見なさい!」
「ハルヒはそんなことしない。てか、見たくないから」
「見ろってほら。すげえから」

いかにもしぶしぶといった様子でちらっと目を走らせる。

「で?」
「で、ってなんだよ!これ見てなんとも思わないのか!」
「矯正ぱんつでしょ。女装コスするものの常識だよ」

いやな常識もあったもんだ。

「セクハラとかしないの?」
「まにあってます」
「酷い!結構いけると思ったのに」
「似合いすぎて面白くない」
「オレに求めるの面白さ!?かわいけりゃいいじゃん」
「うーん」

ようやっと、団吾はオレを見てくれた。
しげしげ眺めて、

「ダメだ」

がっかりだ。

「全然茶越くんらしくない」
「だってコスプレだし」
「茶越くんに限り、いっそ全部脱いだほうがいい」
「そんときはそんときで『ガリガリの男はそそらん』とか言うくせに」
「言うけど」
「言うのかよ!」
「いや、言わない」

手で促されて、行儀悪く机に腰をおろす。
オレの頬を両手で包んで、まつげが触れるくらい近づいて、

「お化粧までしてるね。そんなことしてたらホンモノになっちゃうよ」

だから、お前に言われたくない。
言い返すための唇はやさしくふさがれる。

「茶越くんはそのままが一番いいんだから」

飴と鞭か!団吾の癖に。

「そういうわけで、脱いで」
「できるか!」
「じゃあ家で」
「・・・どうしよっかな」

さりげに専制君主だよな、こいつ。
オレ、支配されちゃってもいいかも。
時々飴さえくれればね!





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