愛のお授業


「なあ紋武」

どうしても話したいことがあるって、半ば強引にオレを自分の家に引っ張ってきた火讐は、部屋に入った途端、真剣な表情でオレに向い合った。

「ん?」
「やっぱり、女のほうがいいよな・・・?」

なにを言い出すのかと思えば。

「あたりまえだろ」

そう言ってやると、目に見えてしょぼんとする。

「やっぱり・・・」

こいつ、そうとう気にしてやがるな。
合宿のとき、御手洗が女連れ込んでたのはオレもショックだっけども。
しかし、オレに相談なんてよっほど思いつめてたんだな。
かわいそうに・・・。

火讐はしばらく考えこんでいた様子だったが、急に顔を上げてオレの目を覗き込む。
つやつやした、引き込まれそうな目だ。オレは気おされそうになる。

「頼みがある」
「なんだ」
「男を満足させる方法教えてくれ!」
「・・・はい?」
「男を満足させる方法を・・・」

いや、聞こえたから。繰り返さなくていいから。
なんでオレに聞くのかなそんなこと。

「お前いろいろ知ってそうだから」

そういうイメージ!?
まあ、そうなんだろな・・・。

「男でもできるんだろ!?」
「あ・・・できる、けど・・・
マジか?」 
「冗談でこんなこと言えるか!頼む!」

確かに、こいつはそーいう冗談はものすごく嫌いそうだ。

「あーー・・・どこまでやる気だ?」
「どこまででも」

実際、御手洗のためならなんでもやりそうだなぁ。

「じゃあ、まず手コキあたりから始めるか・・・」
「恩に着る」
「えーーっと、どうする?してみるか?」 

たいへんな展開に。どうしようコレ。

「やる」
「マジか!?」

いや、ふったの自分だけど。

「減るもんじゃなし。オラ、出せ」
「あ、ああ・・・」

せかされるままズボンのジッパーを下げる。

「あ・・・あくまで研究だからな?」

いいわけしないではいられない。オレがする必要もないんだけど。

「あたりまえだ」 

力強く言いすぎだ、ばか。

場違いな場所で曝け出されたものにコメントはなかった。
ただ真剣な顔でじっと見つめている。

「じゃあ・・・とりあえず、擦ってみ」
「ああ・・・」

固い手が、意外にも、ソフトに包み込んでゆっくりと上下する。

「なかなかうまいじゃん。家でやったりすんの?」 
「・・・うるせ」
「やっぱ、御手洗のこと思って?」
「・・・」
「けなげだねぇ。お前さんは」

やってることは無茶苦茶でも、こいつの心根はまっすぐで、そのへんかわいくもある。

「よし。もういいぞ」
「御粗末さんでした」

律儀にぺこりと頭を下げた。ほんとに授業なんだな。

「手コキは合格だな・・・じゃあ・・・まだやるか?」
「いちいち聞くな。やる」

腹をくくるしかないか。はぁ。

「お前、フェラやれるか?」
「やれる」 

やっちゃうんだ!?

「舐めればいいんだな?」
「いや・・・口に入れたほうがいい。思い切って喉の奥までくわえ込んで・・・始めはむせるから徐々に・・・」 

つい、説明しちまったけど、やばい。これはやばい。

「ちょ、待った!」

今にも食いつきそうに口を開こうとしていた火讐を慌てて押しとどめる。

「やっぱりやめ!」
「なんだよ」
「やっぱダメだ!バナナかなんかで練習しろ!見ててやるから」
「ばかか!」

なんでそこでキれるの!?

「それじゃオレだけ恥ずかしいだろうが!」
「えーーー!?」

なんて勝手なヤツだ!!!
確かにバナナをくわえるこいつを見てるって、余計に卑猥な気がするけどさ・・・!頼んだのお前じゃん。

「じゃあ、まずお前が見本見せろ。次オレがやるから」 

教えてもらっているはずなのにこいつのペースだな・・・。

「う・・・一回だけだぞ」
「よし。ちょっと待ってろ」

台所から帰ってきた火讐はパックに入った団子を持ってきた。
また、皮肉というかなんというか、みたらし団子。

「これしかなかったんだよ」

やつもさすがに気まずそう。はいはい、別にいいですよ。

「じゃ」

みたらし団子を一本取り上げる。
舌を伸ばし、ゆっくりと茶色の甘ったるいタレを舐め上げていく。

「こうやって、舌だけ使って、こう・・・」
「ふんふん」

チロチロと一番上の団子を舐める。
一つ目と二つ目の団子の境目にあたる括れを、尖らせた舌先でくるりと舐め、上へ上へと串から取り外そうと舐め上げる。

「よっと」

舌先だけでその餅を串から外した。

「すごいなお前!」

そんなキラキラした目で見るなよ・・・恥ずかしいから。

「まあこれはフィニッシュで。まずは」

もうきっちり授業してやりますよ。乗りかかった船だ。
今度は一番下の団子をゆっくりと舐め上げる。

「こうやって、焦らす」
「ふんふん」
「手も使うんだぜ」
「どうやって?」
「両手で、こう、撫で上げてやったらキモチイイ」
「何でも知ってるんだな!お前」

だから、そんな感心した顔で言うなって・・・。
痛いくらいの視線を感じながら、あごを傾けて、一番下の団子から順に横に吸い上げていく。
なんかオレのエロパーティみたいじゃね?

「わかったか?」
「・・・」

なにこの空気。あきらかに、異質な。

「オイ、なにへんな目で見てんだ」
「興奮しちまった」
「あほか!」

さすがにあきれて木刀で殴りつけてしまった。

「人に恥ずかしいことやらせといて!ちゃんと見とけ!」
「見てたから興奮してんだこの!」

また逆ギレか!

「続きは実践で教えろ」
「えーーーー!?」 

オイ、御手洗はそっちのけか!?
まあオレもなんかへんな気持ちになっちゃってはいたけど・・・マジで!?(三度目)

「さっきしたようにやればいいんだな!?やる!」
「ちょ・・・!」

******
翌日、学校で顔を合わせたヤツはけろりとしていた。
ほんとうに練習としか思ってないんだな・・・
そういうやつだよお前は!

わかってたよ。オレ相手に愛があるわけじゃないってことくらい。

そのあと、まあいろいろあって、御手洗とはうまくいったらしい。
結局、役に立ったのかね。
オレが教えたようなこと知ってたらかえって嫌われそうな気がするけどな。そういうことは先に言えってか?そうだな。

「紋武、ちょっといいか?」

今でもヤツは知りたいことがあるとオレを呼ぶ。

「しょーがねぇなあ」

そしてなんだかんだ言いつつOKしちゃうオレ。
これって浮気?ただの授業?いやいやどう考えても浮気だろ。
いや、あいつならわからん。
オレたち、どうやっちゃうの?




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