この感情はなんだろう。
いつからこうなったんだろう。
いつのまにか、こいつがかわいそうでたまらなくなっていた。
ちいさな手を血で汚すこいつが。
それでも明るく無邪気なままのこいつが。
この手で抱きしめてやりたいと思うようになっていた。
「一緒に寝るか」
「いやだ」
あいつは強がって、オレの手なんか拒む。
どんなにつらい時でもひとりで耐えている。
「おい、なにするんだ」
これはオレのわがまま。
オレがしたくてしてるだけ。
阿弥陀丸は寝返りを打った。
裸の肩が露出する。
莚から覗く、まだおさないからだには、無数の傷跡が残っている。
白い肌に幾筋も伝う、桃色に盛り上がった刀傷。
その傷跡に、オレはなんども唇を這わせた。
この傷が痛々しく、
このからだがいとおしくてかわいそうで泣きそうになった。
泣きながら愛撫した。
あいつはすこしは感じただろうか。
からだは反応してたみたいだけど。
どう思ってオレの行為を受け入れたのかはわからない。
すっかり眠っているこいつを抱きしめる。
お前はなにを考えているのだろう。
なんで、文句も言わないでこんなことさせてんだ。
阿弥陀丸が目を覚ました。
オレと目が合う。
オレは目をそらしかけた。
どんな顔をしていいかわからない。
でも、こいつはかわいい顔で真正面からオレの目を覗き込んでくる。
目がそらせない。
オレは覚悟を決めて向き直った。
「お前、なにを考えている」
「なにをって」
「オレにこうされて、平気か」
あいつはちょっと困ったような顔をした。
「お前、やさしかったから」
そう言って笑う。
オレがやさしいだろうか。
お前の意思を無視して組み敷いたオレが。
「いやじゃない」
あいつはもう一度言って、オレの胸に頭を乗せた。
あんなことをされたのに、こいつはすこしも汚れていない。
子供のままの無邪気さでオレに触れる。
オレがどう思っているか、お前は知らない。
お前への想いは危険だ。
いつ暴発するかわからない。
大事にしたいと思っているのに、その感情はどんどん膨らんで狂気をはらんでくる。
時には、お前をオレの中にくるみ込んでしまいたいと思うことさえある。
ひどい目に合わないように。
いやな思いをさせないように。
そんなことができるわけがないのに。
ならば、いっそ壊してしまうか。
そんなことを考えてはいけないのに。
突き上げてくる狂暴な衝動を振り払うために強く抱きしめる。
あいつはまた、目を閉じた。
その姿がいとおしい。
ほんとうに、オレはわがままだ。
お前にはなんの罪もない。
オレはささやいた。
「大事にするから」
オレの全身全霊を込めて。
「うん」
阿弥陀丸は目を閉じたまま、オレも大事にする、と言った。
すごく気持ちよさそうに。
このふたつとない、いとしいものを壊してはならない。
すこしだけ、気持ちのもやもやが晴れた気がした。
久しぶりにオレも眠れそうだ。
お前をもういちど抱きなおす。
おおきな目がうっすらと開く。
荒れた手がオレの頬に触れる。
「おやすみ」
どちらからともなく、自然に。
今日は最後の口付けを交わし、二人、深い眠りに落ちた。
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