血のにおい。
おびただしい数の死体。
どす黒い血にまみれている土。
こいつらは虫けらだ。
ひどいことを繰り返した。
だから斬ってやったんだ。
そのことを後悔はしない。
あいつがオレを見ている。
オレは背を向けたまま、顔を合わせない。
「喪助」
「オレは、お前の親を殺したやつと同じになった」
オレは、いつからこうなったんだろう。
あいつらは弱い。オレは強い。
こどものときはそう思っていた。
こどもでいられたら良かった。
「血が騒ぐんだ」
確かに興奮した。
「気持ちいいんだ」
けだものめ。
そんなにひとを斬るのが楽しいのか。
「お前と寝るよりも」
楽しくなんかない。
じゃあ、この高ぶりは何だ。
「オレは鬼だ」
喪助はオレの肩をつかんだ。
表情は見えない。見るのが怖い。
喪助はいつになく乱暴だった。
髪をつかまれて引き倒される。
両手を後ろ手に縛られた。
痛かった。
無理な形に捻り上げられている腕がきりきりと悲鳴を上げた。
なのに、妙な満足感があった。
喪助に身動きできないように押さえつけられていることに。
喪助が荒荒しくのしかかってきた。
後ろから背中に、激しい痛みが走りぬけた。
犯されている。
そう思うと興奮した。
からだが火のように熱くなる。
オレは声を出した。
オレはけだものだ。
「ひとりで苦しむな」
何度も繰り返しオレを突きながら、喪助が言った。
「なんのためにオレがいる」
ああ、そうだ。
「お前の欲望なら、オレが全部受け止めてやる。外にあふれ出さないように」
お前、オレにつきあってくれているのか。
オレのどす黒い欲望に。
どんどん汚くなっていくオレに。
お前はいやなはずだ。
血を見るのなんて。
お前はオレとは違う。
こんな死臭にまみれた場所で。
おびただしい死体の中で。
オレのからだもお前のからだも黒ずんだ血で汚れている。
血が汗と混じっている。
気持ち悪いだろう。
なのに。
お前は一心にオレをむさぼっている。
オレも、お前を食い尽くしたい。
「喰らいたいなら、オレを喰らえ」
お前は。
背中を力一杯抱きしめられる。
ああ、そうさせてもらう。
どうなったって知らない。
喪助がオレをひっくり返した。
両脚を胸につくほど折り曲げて、また被さってくる。
「あ、あ、」
オレは肩で息をしながら、よろこんで喪助を受け入れる。
唯一自由に動く脚を喪助の腰に絡みつけた。
こうしている今でも、
オレはまだ食い足りないと思っている。
これ以上無理というほどみっしりと。
オレのなかにお前がいるのに。
まだ足りない。まだ欲しがっている。
「喰らうぞ。ほんとうに」
お前を喰い尽くしたら、
この乾きはきっと収まる。
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