「こら、喪助」
絡みつく腕を阿弥陀丸は乱暴に振りほどいた。
「やめろ。チビ共が目を覚ます」
「大丈夫だって」
喪助は大きなからだを覆いかぶせてにやにやしている。
夜中である。
外では虫の鳴き声が、寺の中では子供たちの寝息だけが聞こえる。
「声出さなきゃわかりゃしねえよ」
もう手は胸を這い、わき腹へと辿っている。
(ひえええ)
背筋がぞわぞわとなる。
声が出てしまいそうで、慌てて口を押さえた。
周囲に視線を走らせる。
寝息が気になる。
「ん…」
誰かが低くうめいた。
阿弥陀丸は声のしたほうを見る。
動く様子は無い。起きてはいないようだ。
ほんのすこしの音にも耳が敏感になってしまう。
「おい」
阿弥陀丸があたりをうかがっているのがわかるのだろう。
喪助はおもしろくなさそうに言う。
「集中しろ」
「できるか」
阿弥陀丸は出来るだけ低い声で怒鳴った。
「お前が悪いんだ。こんなところで…」
みなまで言えなかった。
(えっ)
二本の指で口をこじ開けられる。
「してくれよ」
目の前に見なれたものが突きつけられている。
腹の奥がかっと熱くなった。
(こいつ、調子に乗ってる)
だが、喪助は引きそうにもない。
仕方なくそれを口におさめた。
(後で覚えてろよ)
舌で扱き、きつく吸う。
「すごくいいぞ」
喪助はのんきに喜んでいる。
「上手くなったじゃねえか」
(この野郎)
口の中でののしってももごもごとしか声は出ない。
(喪助のアホ)
下あごはもう唾液でべたべたになっている。
きっとみっともない顔になっている。
泣きそうになりながら舌を動かす。
口の中を満杯にしていたものは、放出寸前でぬるりと出ていった。
「はあ」
阿弥陀丸は大きく息をつく。
と、次の瞬間には腰を押さえつけられていた。
「ま、待て」
下肢がひやりとした外気に触れる。
裾がまくられている。
「やめろって…」
喪助はお尻を絞り込むように揉んでいる。
今の自分の格好を考えると顔から火が出そうだった。
もうみんなの姿は見ることが出来ない。
(頼むから目を覚まさないでくれよ)
目をつぶって祈るしかない。
押し入ってきた指が乱暴に動く。
掻きまわされているうちにからだの中心に熱いものが生まれる。
喪助は弱いところを的確に突いてくる。
(ん、んっ)
荒い息が押さえきれない。
腰が揺れた。
恥ずかしい。たまらない。
指が引きぬかれ、何倍も太いものが押しつけられた。
弾力のあるものが入り口の周辺を往復する。
挿入しやすいようになじませている。
(あ……)
阿弥陀丸はきゅっと目をつむった。
この時間が好きだった。
期待と不安が入り混じったぞくぞくする感覚。
「は…」
裂かれるような痛みに身を引き攣らせる。
狭い壁を押し開いて入ってくる。
喪助は片手で腰を支えながら、開いた手を前に伸ばす。
中途半端に昂ぶっていたものにようやく心遣いが施される。
「くう…」
巧みな指が扱き上げる。
痛みはすぐに快感に変わった。
(許してやろうかな)
我ながら甘い。
下腹がびくんびくんと跳ねている。
「んん…」
その下のものも、今にも弾けてしまいそうになる。
(まだ、勿体無い)
必死で我慢する。
手と腰の動きにリズムがついてくる。
「ん、ん、ん」
動きに合わせて腰を振る。
二人の肌が擦れ合う。
汗がぬめる。
接合部分からは絶え間無く音が漏れている。
ばれる。絶対ばれる。
でも、気持ち良い。
この快感をもっと味わいたい。
(喪助、喪助っ…)
夢中で手を伸ばして喪助の手をつかむ。
喪助は長い時間をかけて阿弥陀丸を苛み、希望に応えた。
2
西岸寺の子供たちは朝日と一緒に目を覚ます。
着替えたり、顔を洗ったりなんて気の利いたことをするものはいない。
みんな朝から大声で話し、笑いあっている。
「あーあ」
阿弥陀丸はたしなめもせず、ちいさな子供たちと一緒に床に足を投げ出している。
自分でも不機嫌な顔になっていると思う。
「阿弥兄ちゃん、怒ってるの」
時々、顔を覗き込んでそんなことを尋ねる子もいる。
「気のせいだ」
ふてくされたまま答える。
もちろん怒っている。
夕べのことがどうして怒らずにいられようか。
(絶対寺では嫌だって言ったのに)
おまけに腰がだるい。
喪助のせいだ。
その喪助は大きい子供たちと一緒に朝餉用の野菜を取りにいっている。
二人きりになったら、一発は必ず殴ってやろう。
そう心に決めていた。
「兄ちゃん」
まだ赤ん坊のような子供が阿弥陀丸の膝元に寄ってきた。
「飯」
裾を引っ張って繰り返す。
「腹減った」
多分五歳くらいだろう。寺の子供たちの中で一番小さい。
「よしよし」
頭を撫でてやる。
「待ってな。今喪助兄ちゃんが作ってくれるから」
「やだ。やだ」
足をばたばたさせる。
阿弥陀丸は周りを見まわした。誰か女の子に押し付けようと思ったのだ。
でも、みんなしらんぷりだ。
仕方なくまた向かい合う。
「お腹減った」
「いい子だから我慢しろ」
その子は無邪気そうに言った。
「ちんちん食べようかな」
傍にいた女の子が吹き出した。
阿弥陀丸はつい声を上げてしまう。
「馬鹿なこというんじゃない」
「だって」
口を尖らせての発言。
「阿弥兄ちゃん、喪助兄ちゃんのちんちん食べてた」
3
「おい、阿弥陀丸」
その形相を見た途端、喪助は腕一杯に抱えていた野菜をすべて取り落としていた。
「どうしたんだ。いきなり」
「黙れ」
「待てって。やめろっ」
もはや朝食どころではない。
喪助が半殺しの目に合ったのは当然の結末だろう。
夫婦と子供たちのほのぼのとした日常でした。
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