(見えそうで見えないところがいいんだよな)
よく晴れた秋空の下、喪助は河原に寝っ転がって一人悦に入っていた。
城に仕える女たちが毎日洗濯にやってくるこの川は、まさに目の保養地といっていい
だろう。
彼女たちの赤や薄紅の華やかな着物は、太ももまで捲り上げられている。
斜め下から見えるのは、色艶も太さもさまざまな足、脚、あし。
喪助は特等席で鑑賞していた。自分も洗濯ものを抱えてやってきたのにすっかり忘れ
ている。
男なら当然の行動だろうと彼は思う。
(ううん、やっぱり太くてメリハリのあるほうが好みだな)
いい物食ってるんだろうなあ。あの娘なんかはちきれそうだ。足を動かすごとに膝の
裏側にできる隙間がたまらない。
「こら」
「お」
不機嫌極まりない声ともに突然目の前に突き出されたのは。
どんなに動いても隙間のできない、真っ直ぐな長い脚。
「なに油売ってんだ」
喪助は顔を上げた。鋭い目が真上から睨み付けていた。
「阿弥陀丸」
喪助は身を起こし、見慣れたしかめ面からまた脚に視線を戻す。
肉の殺ぎ落とされた、細い脚。
(ろくなもん食わせてないからな)
好みじゃないけど、でも。
(お前のほうがいい)
「さっさと帰ってこいよ」
それだけ言うと、阿弥陀丸はそっぽを向いてしまった。
喪助がなにに見蕩れていたかよくわかっているらしい。
そんな阿弥陀丸の態度には少しもかまわず、喪助は長年朝晩見てきた幼馴染を、じっ
くり眺めた。
藍色の粗末な着物に剣を佩いた姿。脚から続く腰の細さなどもまた。
やっぱりそそる。
喪助はさすがに苦笑した。
きっと、オレだけだな。
こんなに味気ない体がいいのは。
(もちろんオレだって、持ち主がこいつだから、なんだけど)。
喪助はちょっと名残惜しく思いながらも、川に背を向ける。
「待てよ、阿弥陀丸」
そう呼びながら、もう遠くに見える 阿弥陀丸の後姿に追いつこうと駆け出した。
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