支配
尋ねてみた。
「オイラが大事か」
「もちろん」
うん、それはわかっている。
「オイラが好きか」
「好きでござるよ」
お前の好きとオイラの好きは違うよ。
こいつは生きている間はこんなにこにこしてなかっただろう。
なにか大事なものをなくしてしまっいてる。
ほんとうのお前はどこにいる。
多分、こいつには欲望とかなくて。
この世に未練はもうなくて。
なにもかもあきらめてしまっているからだ。
だから、オイラの気持ちなんかわからないんだろう。
こいつはけっしてオイラを裏切らない。
それがわかるから腹が立つ。
オイラの気持ちは空回りしている。
こいつになにを言っても無駄な気さえする。
だから、こいつにひどく冷たく当たることもある。
そんなある日、まん太がおせっかいを焼きにきた。
「葉くん、どうしたの」
「なにが」
「ケンカでもしたの」
ぶっきらぼうに答える。
「あいつがオイラに逆らうはずなんかない」
まん太は、ああ、そうだねと言って肩をすくめた。
「なあ、まん太」
なんとなく聞いてみる。
「お前はオイラに文句言ったりするよな」
「そりゃあね、君、見てるといらいらするから」
さりげなく失礼なことを言うやつだ。
でも、そうだ。
友達なら、なんでも言うこと聞いたりはしない。
ほかのやつにはどう見えるだろう。
「オイラたち、友達に見えるか」
「君と、阿弥陀丸が、かい」
まん太は首を傾げた。
「友達というのとは違う気がする」
やっぱり。
「それ以上なんじゃないの」
それ以上。
あいまいな言葉だ。
オイラだってそう思うけど。
二人の道は交わることはない。
それでも。
このうえもなく深いところでつながっている。
そう信じているけども。
実際のところ、お前にとってオイラはなんなんだろう。
オイラは対等でいたいと思っているのに。
遠慮なんかしないでほしいのに。
お前は心を許そうとしない。
オイラはお前を縛っているのか。
恩があるからここにいるだけなのか。
そんな関係は望んでいないのに。
お前はいつも笑っている。
なにを考えているのかわからない。
また尋ねる。
「オイラが好きか」
「もちろん好きでござる」
「そうか」
そんな答えが聞きたいんじゃない。
でも、なんと言ってもらえば気が済むんだろう。
こいつに罪はない。
こいつはいつも一生懸命だ。
全身全霊を込めてオイラに尽くしてくれている。
頬に手を置いた。
冷たく滑らかな感触を楽しんでから引き寄せる。
荒っぽく唇を奪った。
あいつは黙ってされるがままになっていた。
「葉殿」
口を離すと、あいつはなんともいえない顔をした。
「オイラが望むならなんでもするって言ったろ」
意地悪なことを言っている。
「その先もしていいか」
「葉殿」
「オイラのことは葉でいい」
「葉殿」
もういちど、唇をふさぐ。
今度は阿弥陀丸もすこしたじろいだ。
それでも、オイラは髪をきつく握ってはなさない。
オイラが本気だと思い知らせてやるために。
あいつはちょっと手を動かしかけて、すぐにおとなしくなった。
目の前のあいつの顔はものすごく申し訳なさそうだ。
悪いのはオイラなのに。
オイラが無理を言ってるだけなのに。
そして、ぽつぽつと言った。
「拙者、葉殿に仕える身」
「葉殿のためなら、なんでもするでござる」
「だから、それだけは」
そうか。
「それ以外なら、なんでも従います故」
お前はそれを望むんだな。
「ほんとうに、なんでもか」
「もちろん」
こいつが本気だと言うことはわかる。
無理な話だが、死んで見せろといったら死ぬはずだ。
結局、こんなかたちでしか交われない。
お前が望むのなら、オイラはそうしよう。
友達なんて甘い言葉でごまかすのはやめる。
お前はオイラのものだ。
燃え尽きるまでその魂を使ってやる。
オイラは笑った。
ちっともうれしくないのに。
お前が望むならそうするしかないだろう。
おしまい