Be My Baby
小麦色の足が砂を踏む。 「わっ、大胆」 彼女が通るとどよめきが巻き起こる。 「喪助、グラマー」 「かっこいいねえ」 「ふふん」 自由参加の臨海学校とはいえ、地味な水着姿の少女が多い中、いやでも目立つ黒のヒモビキニ。 その面積では隠しきれない豊かな肉体。 「いいなあ。かっこいい」 賞賛の言葉を浴びて、彼女の胸はますます膨らむ。 「そんな見んなよ」 得意満面でよくも言う。手も腰にあてがっているし。 ーほれ、見ろ。やれ、見ろ。 「あんた、ますます立派になったんじゃないの」 彼女の胸のあたりをしげしげと見ているのは幼顔の残る髪の長い少女だ。 「あら」 口の端が上がる。 いたずら坊主の顔で、少女の台形の布に包まれた胸を見ながら言う。 「ピリカちゃんこそ、ちいさいけどかたちがいいじゃない」 「あんた、それ、プチおごった発言ねえ」 少女が腕を振り上げる。彼女はますます笑った。 ーおーお、絶好調ですこと。 「お」 彼女は向きを変えてつかつかと歩き始めた。 赤、桃色、淡いブルー、深い海のような緑色。 いろとりどりの花が咲いている。 一番鮮やかな花の前で立ち止まった。 「美人さん、オレと遊ばない」 「うるさい」 真っ赤なビキニの美女は肩にかけられた手を払いのけた。 いやがってはいない。 この美女はちょっと抵抗しただけで、あっさりと身を任せてしまったのだ。 彼女は引き寄せた恋人にささやく。 「素敵だね。その小胸」 「ばかっ」 殴られた。 ―はしゃぎすぎだ、ばか。 完全に調子に乗っている。 リゼルグは知っている。 喪助が試験中でも休むことなく大胸筋の拡大計画を実行していたことを。 すべてはこの日、やらしい水着を着るために。 「しょうがないじゃない。モトが違うんだから」 「ばかたれ」 恋人にまで見栄を張っている。 リゼルグの頬は緩んだ。 ―実際のところ、あの突き出した胸の何割が筋肉なのだろう。 そう考えると笑いがこみ上げてくる。 熱い砂に足を埋めたまま、リゼルグはひとりくつくつ笑いつづけた。 おしまい。 |