夏も近いある日。
その不思議な生き物とピリカははじめて出会いました。
それは、黒いつやつやした毛並みのネコと、銀色に輝く毛並みを持つ、上品な顔立ちのネコ。
街の小さなペットショップの片隅で、2匹は寄り添って、ピリカを見上げていました。
ピリカはその目から目をそらすことができませんでした。
それはとてもかなしそうに見えたのです。
「お客さん、お目が高いですね」
ちょっと不良っぽいルックスの店員のお兄さんがピリカに近づいて来ました。
「人間ならぴちぴちの高校生。しかも生娘ですよ」
最後のセクハラめいた台詞は聞き流します。
「この子、おいくらですか」
レジの前にいた若い女性の店員さんに聞きます。
「申し訳ないのだけど、その子たちは2匹一緒でないとお売り出来ないのですよ」
やさしそうなその女性はそう言って頭を下げました。
お姉さんの話では、なんでも2匹はとても仲が良くて、引き離そうとしたら餌も食べなくなるのですって。
しかも人間にはまったくなつかなくて。
「だからといっていつまでもここにおいておくわけにはいきませんし」
もう、ピリカの胸はどうしようもないほど疼いていました。
もし無理に引き離されたらほんとうに死んでしまうかもしれません。
2匹の目を見ていると、そんな気がするのです。
さみしいと死んでしまうのは兎だったっけ。細かいことはどうでもいいのです。
ピリカはどうしてもその場を去ることができませんでした。
交渉の結果、2匹はかなりの安値でピリカの手に渡りました。
お財布の中はすっからかんになりましたが、心は一杯です。
ピリカは2匹を大事に抱いて狭いながらもいとしい我が家へと戻りました。
カーテンもシーツもピンク。ピリカのお部屋はとてもキュートです。
ピリカは2匹をそっとベッドの上に座らせました。
そしてすこし離れると、まじまじと眺めます。
「うん、きゃーわゆい」
ファンシーなお部屋にふわふわの小猫。美少女のお部屋に相応しい。
「あれ」
ピリカは目を疑いました。
ベッドの上の2匹が、なせかへんなのです。
ピリカは目を凝らしました。
視力はいいのです。だてに大自然の中で育ったわけではありません。
なのに。
どうみても、どうみても。
目の前にいるのは、ナイスバディの人間の女性でした。
しかも、肝心のところを黒い毛で覆っているだけの丸裸。
もう一匹は長い銀色の髪を腰まで垂らした綺麗な少女でした。
目をこすって、もう一回凝視します。
やはり、女性でした。
これはどういうことでしょう。
ピリカはアイヌのシャーマンの娘です。
ピリカ自身はなんの訓練も受けていない普通の娘ですが、やはり霊能力は備わっているらしく、
幼いときからひとが見えないものが見えてしまうこともありました。
彼女にとっては迷惑な能力ですが、もうあきらめていました。
この姿は、彼女たちの霊でしょうか。
不思議ですが事実、目の前にあるものを信じないわけにはいきません。
「おーい」
突然の大声に、ピリカは飛びあがりそうになりました。
声の持ち主はこの家のもうひとりの住人、ホロホロです。
ピリカは立ち往生していました。
自分にさえ、こんなにくっきり見える彼女たちが、ピリカより霊能力の高い兄
(そのかわり、成績も周囲の評価もピリカのほうが上ですが)に見えないとはとても思えません。
ピリカは兄が裸の女性を見るのはいやでした。
すくなくとも自分の前では。
ホロホロはドアを開けました。
相も変らぬおマヌケな顔で入ってくるなり、彼は歓声を上げました。
「お、かわええな」
うれしそうに顔をほころばせます。
ピリカは2匹を指差しました。
「お兄ちゃん、これ、なに」
ホロホロは首を傾げます。
「なにってネコだろ」
どうやらちゃんと猫に見えるようです。ピリカはほっとしました。
「こーい。こいこい」
2匹はホロホロが伸ばした手をバカにしたような顔で眺めているだけです。
頭を撫でようとすると、黒猫は噛み付きました。
「痛えな」
ホロホロの非難だって知らんぷりです。
お姉さんの言う通り、そうとうに気難しいネコのようです。
ホロホロは血のにじんだ指を口で吸い、(多分、なんの悪気もなかったのでしょうが)、
その手でピリカに触ろうとしました。
「いや。キタナイ」
ピリカは思いきり跳ね除けます。
ホロホロはすぐに手を引っ込めましたが、なんだか哀しそうな顔をしました。
ピリカはどうしていいのかわかりません。
昔は大好きだったお兄ちゃんですのに、最近はこんな態度ばかりとってしまいます。
そんなふたりをネコたちはやはりバカにした表情で見上げていました。
ピリカはやがて、2匹が人間に見えるのはごくわずかな時間であることを知りました。
ほっとします。
なにしろネコはお行儀が悪いのです。人間の女性がとてもできないような格好もします。
それに、妙齢の女性が裸でおしっこするところなんて、見たくありません。
飼い主のそんな気持ちにはお構いなく、2匹は日がな一日ごろごろしています。
することといえばじゃれあうだけ。
当然です。
ネコは遊ぶのが仕事。
面倒なこと大嫌い。痛いのは大嫌い。
気持ちいいことが好き。
それがネコと言う動物なのですから。
その遊んでいる姿で人間は癒されるのです。
かわいいのはほんとうにトクだとピリカは思いました。
その日、兄はピリカの部屋で漫画を読んでいました。
「こいつら、ほんと仲いいな」
漫画に飽きたのでしょう。ホロホロはほほえましそうに眺めています。
(鈍い)
ピリカはちょっとバカにして兄のマヌケヅラを盗み見ていました。
2匹はいつものようにじゃれあっています。
黒猫が銀ネコを押さえつけます。
ぺろぺろ。
首をなめはじめました。
「にゃあーーん」
銀ネコが甘い声で鳴きました。
ピリカは赤面しました。
すぐにもふたり(2匹か)を引き離したくなります。
べつにおかしなことはないのです。
互いの体を舐めるくらい、猫なら普通にやることですから。
ただ、間が悪くも、今のピリカの目には人間の女性に見えているのです。
黒猫はしつこく舐めまわします。
銀ネコの半月型の綺麗なおっぱいに顔を埋めて。
ぺろぺろ。
薄い毛のなかからピンク色の乳首が覗いています。
それは唾液で濡れ、なんだかいつもより尖っているようです。
ぺろぺろ舐めると、口に含みました。
吸いながら舐めています。
銀ネコの背中が反りました。ぶるりと、震えて黒猫の頭にしっかり抱きしめます。
とてもエロチックです。
と、いうより、どう見ても人間の反応です。
(ああ、そうか)
ピリカは気づいたのです。
このニ匹が、兄弟でも、まして親友でもない、恋人同士だということを。
(レズ猫…)
ピリカはいたたまれなくなりました。
まばゆいほど白い(ネコのくせに)お腹を通り、黒猫の頭はだんだん下に降りていきます…。
銀ネコはもう声も出ない様子でした。
ピンクの唇が開き、真珠のような白い歯が覗いています。
(綺麗だな)
いつのまにか見とれていたピリカは黒猫の桃色の舌が銀ネコの下の唇を掻き分けるのを見て
あわてて顔を背けました。
聞くまいと思っても、いやらしい音が耳に入ってきます。
びちょ。びちょ。
水を飲むときみたいな音がします。
ピリカは耳まで赤くなりました。
お兄ちゃんにこの音は聞こえないのでしょうか。
気になるけども、確かめるのはこわい。
(ばか。お兄ちゃんが側にいるのに)
兄の前でいやらしいことをされるのはいやです。
それに、なんだか腰がむずむずしています。
兄の前でこんなになってしまうのはイヤです。
私はこんなにいけない子だったのでしょうか。
あなたがいるのに。
ああ、いやだ。どうしちゃったんだろ。
「でてって」
「おい、なんだ」
ピリカは有無をいわせず、兄を部屋から追い出しました。
すばやく鍵をかけます。
そして床にへたりこみ、もう恥じることなく食い入るように見つめます。
うつくしい銀ネコは、いままさに絶頂を迎えようとしていました。
長い脚が突っ張り、ぴんとつま先が反ります。
ああ、あんなふうにされたら。
ピリカは手をスカートに突っ込みました。
さっきから脚の付け根が熱くて仕方がありませんでした。
ずきずきと疼くそこをさすります。
「ア…」
耐えがたい痛みにピリカはのけぞりました。
それても中につっこみます。ひんやりとした液が指を濡らしました。
掻き回すと痛みはますます広がり、やがてとろけるような心地よさに変わりました。
(もっと…。もっとして…)
呟くと羞恥に全身が薔薇色に染まるような気がしました。
一体誰に?わかんない。でも。
ピリカは夢中で指を動かしました。
(もっとナメて…)
ネコたちはピリカのことなんて気にしません。
ピリカは思う存分ひとり遊びにふけりました。
余韻に頬を染めながら、ピリカはふたりを見つめています。
2匹はお互いの脚の間に顔を埋めて舐め合っていました。
じゃるじゅると音を立てています。
そのいやらしいことといったら。さすがけだものです。
黒猫が気持ち良さそうに伸びをしました。
その様をうつくしい、とピリカは感じました。
そして、なぜ、自分にだけふたりが人間に見えるのか。
すこしだけわかったような気がしました。
ふと、幼いころに聞いた父の教えを思い出します。
(波長が合うことが大事だ)
(それって、どういう意味)
(似たところがないと分かり合えない)
ピリカは声に出して尋ねました。
「あたしのどこがあんたたちに似てるというの」
もちろん、返事はありません。
でも、ピリカは答えなど必要としていませんでした。
あなたとあたしは同じもの。
あたしのみにくい部分。
見たくない。できるなら一生。
ですが、心優しいピリカは2匹を手放す気にはなれません。
一般人から見たら2匹は猫、なのですから、
別々に拾われるかもしれません。犬に襲われるかもしれません。
そんなことは許せない。
なによりも、そのふたりの交尾を見て感じてしまった罪悪感がそれを許しません。
あんなに感じて。恥ずかしいことまで口走って。思い出すとまた濡れてきそうです。
照れ隠しにピリカははっきり声に出して言いました。
「いいじゃない、べつに」
ひとの性的思考はそれぞれだもんねえ。いや、ネコだけど。
心優しい少女は目の前で痴態を繰り広げる2匹を見つめながら、
なにかがふっきれたような気がするのを感じていました。
おしまい
|