今夜はすこしアダルトに


「喪助」 

一瞬誰だかわからなかった。

阿弥はピンク色のキャミワンピを着ている。
髪はいつものようなポニーテールではなく、ひとつにまとめて結い上げている。
その姿はどう見ても品の良いお嬢様で、とても剣道日本一の女丈夫には見えない。
 
「なんで無視すんだよ」
阿弥はちょっと口を尖らせる。
その顔は喪助が良く知る阿弥だ。
「ああ、すまない」
喪助はちょっと笑って、人込みの中で阿弥の手を取った。
喪助は今日で二十歳になる。
誕生日は二人で過ごそうと前から約束していた。


二人で歩く。
夏休み真っ只中の街は若者で溢れかえっている。
デパートの地下で食事を取り、一階から順に見て回る。
普通の仲良しの女の子同士のように、服を選んだり、コスメ売り場を見学したり。
「阿弥ちゃんに似合いそうだな」
ティバックのパンティを手に取る。
阿弥はじっと見た。

隠すところは3センチほどの幅しかない。
それでなくとも透け透けである。

「馬鹿」
頬を染めてうつむく。
喪助はさらにうれしくなる。 
「似合うし、脱がしがいがある」
「やらしいな。このオヤジ」
軽く小突かれる。

 こんな会話は友達とはしないな。

喪助はにやにやする。
「もう、なに考えてんだよ」
阿弥はさらに照れて喪助の肩を叩いた。

ガラスケースの中にアクセサリーが並んでいるのを見る。
「これ」
白い指が、ひとつを摘み上げた。
「お前に似合いそうだ」
それは、銀色に輝く三日月の飾りがついたイヤリングだった。
 
喪助は手にとって見る。
軽いし、値段も手ごろだ。
 
「いいかもな」
阿弥の顔がほころんだ。

「じゃ、オレが払うね」
「なんで」
「お前の誕生日だからに決まってるだろ」

すっかり忘れていた。
阿弥に会えさえすれば、理由なんかどうでも良かったのだ。 

「別に良いのに」
「良くない」
「じゃあ、オレもお前にひとつ買う」
それでお揃いにしよう。
そういうと、阿弥は本当にうれしそうに笑った。

もうすぐ日が暮れるが、街はまだ混雑している。
ふたりで並んで歩く。

歩を進めながら、阿弥が口を開く。
「お前、共学だろう。合コンとか行くのか」
「行かない」
「誘われるだろ」
「いいや」
阿弥はびっくりしたようだ。
「うそつけ」
「ほんとだよ」

喪助が通う大学の学生は二通りに分けられる。
遊ぶことに夢中なものと、学業に熱心なものだ。
彼らはお互いに敬遠し、口を聞くこともない。
喪助は後者だった。
自分でそれを選んだ。
 
「阿弥」
黙っているので気になって顔をうかがう。
阿弥はしょんぼりしていた。
「お前は楽しんでるか」
元気付けようと、話題を振る。
「うん」
うつむいたまま、こくりとうなづく。
「みんな変わってないかな」
「ううん。蓮なんかすっかり背が伸びて」
喪助は笑う。
「うそだろ。想像できんな」
「楽しいよ。でも」
阿弥は地面から顔を上げて喪助を見た。
「お前がいないから半分になった」

喪助は言葉に詰まった。
それからはあまり口も聞かず、黙々と歩いた。

だんだん陽が落ちてきて、あたりを藍色に染めていた。


阿弥はビジネスホテルに宿を取ると言い出した。
「お前んちに泊めてくれるのかと思ってたのに」
「家だと気を使うだろ」
すでに決めていたらしい。
「本当に気にするな。そんなに高くないから」
阿弥は当たり前のようにホテル代を払った。



部屋に入ると、阿弥は喪助に飛びついてきた。
「喪助」
喪助も手を開いて迎える。
すんなりとしたからだを久しぶりに抱きしめた。
切なそうに見つめているのでキスしてやる。
柔らかい湿った肉を舌で割る。
首に回る腕に力が入る。
 
合えなかった分の、思いを込めたキスに。
お互いたっぷりと浸った。
 
口を離すと、かすれた声が漏れた。
「んん…」
白い喉に唇を這わせる。
「駄目」
阿弥は身を引いた。
「夏だし」
恥ずかしそうに言う。
「汗かいてるし」
「お前の汗の匂い、好きだぞ」
なおも顔を埋めようとする喪助を、阿弥は少し強引に引き剥がした。
「駄目。お風呂入ろ」
  
バスルームはニ畳程度の広さだった。
床も壁も淡いベージュ色で意外とムードがある。

バスタブにお湯を張りながら、ふたりはまずシャワーを浴びた。

喪助は腰掛けをひとつ持ち出した。

「ここに、足上げて」
「え」
阿弥の顔がこわばった。
「洗ってやるから」

阿弥は躊躇している。

ここに片足を乗せたら、喪助にすべてを晒してしまうことになる。
「オレに見せられないものなんかないだろ」
阿弥はまだ戸惑っていたが、そう言われると観念したように従った。
髪の毛と同じ銀色の綿毛に触れる。
阿弥は顔をそらした。
喪助は綿毛をやさしく掻き分ける。
「見えてきたぞ。阿弥のかわいいとこ」
「いや…」
阿弥が腰をひねる。
ふっくらとした丘と秘めやかな狭間が露わになった。
両手の指で割り開く。
 
「あれ」
「どうした」
「前と違う」

阿弥は心配そうに喪助を見ている。
「ぽってりしてきた」
恥ずかしげに顔を出した花弁を摘む。
そこもすこし濃い桃色になっている。
 
にやにやしながら阿弥の顔をうかがう。
「おイタがすぎたんじゃないか。」
大きな目に、じんわり涙が浮かんできた。
「オレがいない間、何回いじったんだ」
「そんな…」
阿弥は今にも泣き出しそうだ。
 
相変らずかわいいやつ。
 
喪助は笑った。
「今でも可愛いよ」
両手で頬を包み、キスしてやる。
阿弥は首を振った。
「ここも肉がついてくるのが自然なんだから気にするな」
自分で指摘しておいて、ぬけぬけと言う。
「前のほうが良かったんだろ」
「阿弥ちゃんは世界で一番可愛い」
また、キスをする。
「ぷっくり膨らんだ阿弥ちゃんも可愛い」
「もう」
阿弥はまた泣きそうになる。
恥ずかしくて、でもうれしいのだ。
 
「じゃ、洗ってやる」
石鹸を泡立てた手で狭間を撫でる。
「やっ」
阿弥はピクンと震えた。
 
喪助は阿弥の微妙な部分をするりと撫で下ろした。
お尻の谷間を行き来させる。
当然、奥のちいさな蕾も掠める。
「いや、もう…」
「洗ってやってるだけだろ」 
頃合いを見て、喪助は前に触れた。
両手の指で棘を剥き上げる。
「ひゃあ」
阿弥は悲鳴を上げ、あまりに強い刺激から逃れようとする。
喪助はその腰を押さえ込み、容赦なく小粒の種をいじった。
「だめ…、だめ…」
幾度も腰が跳ねた。
からだについた水滴が飛び散る。
ぶるぶる震えて達した。
 
阿弥の息が収まるのを待つ。
ぼんやりとした表情で、まだ余韻に浸っていたそうな阿弥に喪助は命令した。
「お尻も見てやるから四つん這いになりな」
「いやだ」

口ではいやがっていても、阿弥は喪助を拒めない。
 喪助に背を向けて両手をつき、おずおずとお尻を突き出した。

「ふん。やっぱりな」
蕾の周辺を撫でる。
「こっちももの欲しそうにヒクヒクしてる」
「やめて」
「欲しいんだろ」
石鹸の泡を塗りたくる。
「そこは、やめて」
「結構好きなくせに」
「絶対いや」
阿弥はかたくなに拒んだ。
喪助に向き直る。
「せっかく会ったのに、そんなことされるんのいやだ」
 
真剣な顔。
印象的な紅い大きな目。
 
「ちゃんと愛して」
 
この顔に、喪助は引きつけられる。
この目に、喪助は恋をしている。
あの頃も、今も。
 
「ああ」
喪助はまた、阿弥の腰を引き寄せた。
「焦らして悪かった」
濡れた銀毛に顔を近づける。
「お前が大好きなもん、あげるからな」
そう言って、桃色の狭間に口をつけた。
 
中心からトロトロに溢れ出ている蜜を舌で掬う。
「あう…」
背中が反る。切ない声が漏れる。
「味は変わってない。オレの好きな洋梨のジュースだ」
音を立てて蜜をすする。
そのいやらしい音と言葉に阿弥は真っ赤になり、首を振って耐えている。
「ああっ」
棘を口に含んできつく吸い上げてやると、死にそうな声が上がった。
 
「喪助、喪助、」
 
阿弥は何度も震えて達し、そのたびに切れ切れに喪助の名を呼んだ。
 
「喪助、いいよ…、いいよ…」
快感の中でも意識は喪助を求めている。
 

こいつは、今でもオレを愛してくれている。
 
オレはもう女王じゃないのに。
 
学園から一歩外に出たら、無条件に喪助を受け入れてくれるものなどいない。
喪助は女王から孤独な少女に戻った。
それは当然のこと。
人生の一番良い季節は終わったのだと思う。
すこしも不満はない。
 
阿弥がパッチリ目をあけた。
喪助は汗ばんだ額にキスをする。

お前とこうしているときはつまらないやつなんかじゃない。

「お前がオレを好いてくれている間は頑張らなきゃな」
「なんだよ。今だけみたいに」
阿弥は不満顔だ。
「お前には、ずっと頑張っててもらわなくちゃ」

「ああ、そうだな」
 
阿弥は身を起こした。
目の前にある、喪助の胸に触れる。
「オレも触りたい」
喪助は素直にうなづいた。
阿弥は嬉々として、胸の膨らみに吸いついてきた。



街は朝の光りに満ちている。
別れの時が近づいてきている。
ふたりは時間を惜しみながら駅までの道をゆっくりと歩いていた。

「喪助」
阿弥の腕が喪助の腕に絡まった。
喪助はすこし緊張したが、阿弥は肩に頭を乗せてべったり身を委ねてくる。
「よせ」
「いいじゃん。オレたち恋人だもん」 
きっと、阿弥はわざとはっきり言ったのだ。

街の真ん中だ。
視線がふたりに集中している。

「ほら、見ろよ」
「美人のレズカップルだ」 
「きっと朝帰りだぜ」

通勤途中のサラリーマン。派手な服装の若者たち。
そして興味津々とった様子で無遠慮な視線を投げかけてくる学生たち。
みんなにやにやしている。
 

喪助はとっさに手を離した。
阿弥の手が逃すのまいと強く握る。

「オレは構わないが、お前は嫌だろう」
「平気だよ」
阿弥はにっこり笑った。
喪助とお揃いの、金色のイヤリングが光る。
「だから、手を繋いで歩こう」 

きっと、大丈夫。

細いけどしっかりとした感触の手を、喪助も握り返した。

夏なのに、阿弥の手はひんやりとして気持ち良かった。

 
おしまい