花園番外編
蜜月


五月のはじめの日曜日。
喪助と阿弥はひさしぶりに町へ出た。

学園から20分も歩けば商店街がある。
けっして大きなものではないが、学生が用を足すには十分だ。

喪助はすでに見なれた町並みを眺めている。
昔は暇さえあれば通っていた。

「どこに行く」

ひとりのときは必ず本屋から回るが、今日は阿弥の意見を尊重する。

めずらしく私服姿の阿弥はすこし照れた顔で答える。
「お前に任せるよ」

これはデートなのだ。
それらしい台詞に、喪助もうれしくなった。

「じゃ、なんか食ってくか」
阿弥はこくりとうなづいた。


阿弥はスポーツ選手だから節制してるし、喪助は太りたくないと自主規制している。
そんなふたりだから、ファーストフード店ではなく、ちょっとお洒落なファミレスでヘルシー定食が定番だ。

ケーキ屋にも寄る。
阿弥はケーキセットを、喪助は和菓子を。
たらふく食べて別腹を満たした。

「よし」
膨らんだ腹を撫でて立ちあがる。
今日は服を選ぶ予定なのだ。


最近この商店街に新しい店ができた。
「リリララのお店」という名前の洋服屋である。
先日ちらりと覗いて雰囲気が気に入っていた。

マネキン代わりの木でできた人形があちこちに立てかけられている。
店内は昔のアメリカ風の装飾が施されている。
アメリカ風、というよりインディアン風と呼ぶべきか。
カーテンも壁紙も、それっぽい幾何学模様が入っている。
もちろん、ショーケースにはインディアン風のアクセサリーも並んでいるが、これは飾りなのだろう。
メインはおもに若い女性向けの洋服である。
渋い色合いのジーンズがあるかと思うと、原色のシャツやスカートもあり、品揃えは豊富だ。

ちょうど夏物が入ってきたところだった。
店頭に夏らしいさわやかな色の服が並んでいる。

ふたりのお目当ての品もちゃんとあった。
夏と言えば海。海と言えば水着。

あれやこれやと迷いながらふたりとも数枚選んだ。
それをレジに持っていく。

主人のリリララはつねにレジ脇の丸太のような椅子にに腰掛けている。
異常に無愛想な顔をしていて、まるで商売気がない。
ノースリーブにロングスカートと言う風体も異常だし、片方の頬には不思議な形のピアスまでしている。

「試着していいですか」
「ああ」

彼女はやはり無愛想にうなづいた。

まだ時間が早いせいか、店内にはほかにひとはいない。
ふたりはレジから一番遠い試着室に向かった。


「どうだ」

まずは喪助が、カーテンを開けてお披露目をする。

阿弥はみょうな顔をした。
「似合わないか」
「いや、似合うけど」
首をひねっている。
「お前にしちゃ地味だと思って」

シンプルな黒のセパレーツの水着。
ハイレッグでこそあったが、特別きわどいところはない。

「機能が第一だ」
そう言っても、自分でもうそっぽいと思う。

実は、喪助は水泳が苦手なのだ。
泳げないわけではないが、かたちが決まらない。
格好悪いと言われたこともある。
だから自然と水着に対しては消極的になる。

喪助はもう一度鏡に映る姿を確認する。

胸から腰にかけての綺麗なラインがあますところなく出ている。
それで十分だ。

「これにする」
ひとりでうなづいて、試着室を出た。

入れ替わりに阿弥が入った。


「もういいぞ」

呼ばれてカーテンをくぐる。

中にはすこし恥ずかしそうに肩を縮めた阿弥の姿があった。

「うん、やっぱり似合う」

喪助いちおしの水着。
色は白い肌が引き立つピンク色。
スタイルは、といえば。

「いいなあ、やっぱり」

水着と言えばビキニ。これしかないいうくらい喪助はお気に入りだ。

剥き出しになっているお腹と背中がなんともそそる。
胸、お腹、お尻と、それぞれのパーツが強調されている感じが好きだ。

にやけ顔の喪助とは対照的に阿弥はしかめ面をしている。
「派手すぎる」
「全然そんなことないって。それにすべきだ。オレの目は正しい」
そう言って、上から下まで舐めるように眺め回す。

白滋色で綺麗なお椀型のふくらみ。
それを包むブラジャーにはカップが入っていない。
乳首が透けているのが何とも無防備だ。


このままプールに行ったら、みんな見るだろうか。
見せたい。自慢したい。
でも、だめだ。

こいつはオレだけのもの。
オレだけが見ていいんだ。

この小ぶりで触りごこちのいい胸も、縦長のおへそも。
そして。


喪助はひざまづいた。
パンティの両端に手をかけ、引き上げる。
「なにすんだよ」
「ハイレグのほうがかっこいいぞ」
さらに引っ張る。
「ばか、よせ」

布の隙間から、タンポポの綿毛のようなものがほんのすこしだけ顔を出した。

「ずるいぞ。こんなとこに猫ちゃん隠して」
「あほ」
「銀毛だからペルシャ猫だな。撫で撫でしてやろう」

「やめろ、お店の人がいる」
「あのひとはなにも言わないって」

香蘭に見つかって以来、さすがに学校では遠慮している。
かといってそんなにしょっちゅう沙世を追い出すわけにもいかない。
喪助は欲求不満気味だった。

喪助は銀色の愛猫をやさしく撫でる。
阿弥はくすぐったそうだ。

喪助は手を伸ばして後ろのほうも食い込ませる。
鏡に二つの白い小山が映った。


引き上げた布の上部を親指と人差し指で絞る。
パンティは紐のようになった。

「食い込んでる、食い込んでる」

ピンク色のパンティの中央に、肉の谷間がくっきりと浮かび上がっている。
両端からはかわいらしい綿毛が覗いている。

喪助はじろじろ見てやった。
阿弥の頬はすっかり桜色に染まっている。
でも、その顔は無理に作ったような怒り顔だ。

みだらなかたちになった布に指を近づける。
中心の線に沿って指を這わせた。

「う、」

阿弥は眉をひそめる。

ゆっくりとなぞる。

阿弥が腰をもじもじさせた。

指をすこし、奥にめり込ませる。
布を隔てていてもちゃんと内側に入っていく。
第一間接まで入った。
そこで小刻みにバイブさせる。

入り口付近は神経が密集しているから感じやすい。
お腹側の壁をたっぷり扱いてやる。

阿弥の下肢が震え始めた。

「いやらしいな」

喪助は言葉で辱めることも忘れない。

「お○○こが膨らんでるのがはっきり見えるぞ」
阿弥は耳まで紅くなった。

「そんな単語使うな」
「こういうときは下品なほうがいいんだよ」
にやにやしながら囁く。

さらにぐい、ぐい、と突き入れる。

「はあ、」
膝ががくがくと震えている。
もう立っているのがつらそうだ。

白いからだが汗ばんでいる。
阿弥の汗はフェロモンを含んでいるのだろうか。
いつもこの匂いに煽られる。

熱を帯びた壁をきつく擦る。

阿弥は目を開けた。
「喪助、」
「なんだ」
「こんなの、変態みたいだよ」

細い声で抗議する。

「するならするでいいから、こんなのは」

喪助は非情に言いきった。

「脱ぐなら自分で脱ぎな」
「お前、ほんと、おっさんみたいだ…」


伸び上がって突き出している乳首を噛んだ。
ころころと舌で転がす。
指も動かし続けている。
喪助はふたつのいとしい部分を同時にはずかしめた。

阿弥はついに声を出した。
「あん、」

鼻にかかった甘い声。

阿弥は自分の声に真っ赤になってうつむいた。
そうすると喪助と目が合ってしまい、ぷいと横を向く。

その反応が、なんともかわいい。

乳首を離した。
阿弥の震える腰をささえ、そこを眺める。

銀色の綿毛が湿っている。
二つの肉はすっかり火照り、薄く色づいている。

布をずらして触ってやってもいいのだが、してやらない。

喪助はそこに顔を埋めた。

「や、」

合わせ目を尖らせた舌でなぞる。

「いや、いや」

阿弥の声は泣きそうだ。

ゴムの味しかしない。
阿弥が溢れさせる液の、洋梨に似た味が気に入っているのに。
それでも、直に舐めてやったりはしない。

指が埋まっている窪みから上方のぷっくり膨らんだ部分まで。
丁寧に往復する。

「う、う、」

声が切羽詰ってきた。
頂点が近い。

喪助は駄目押しに硬くしこっている芯を噛んだ。

ついに、切れ切れの高い声が上がる。

「あ、あ、あ、」

その瞬間の表情は見逃したくない。
喪助は顔を上げる。

しなやかなからだがはねた。

水から上がった魚のようだと思った。
白い肌につややかな髪がかかる。
恍惚とした表情。
人魚姫。

まさに、オレの人魚姫だ。


阿弥はしばらくぴくぴくと震え、やがておおきく息をついた。

「はあ」

息が収まると、喪助を睨みつける。
「このバカ。水着、どうするんだ」

パンティの中はきっと、阿弥のジュースでぐちょぐちょになっている。

写真つきでブルセラにもっていったら高く売れるだろうな。

などと考えながら、喪助はしれっとして応える。

「ゴムだから拭けばわかりゃしないって」

でも、さすがにこんなことをしていて買わないわけにはいかない。

阿弥の支度が終わるまで、喪助は試着室から追い出されていた。

頬の筋肉が緩んでくる。
この夏にはビキニ姿の阿弥が拝めるだろう。

喪助の作戦は成功した。

阿弥はそれをしぶしぶレジに持っていった。
喪助に言われてちゃんとパットも揃えている。

リリララは相変らずの無表情でレジを打った。

綺麗に包んで渡すとき、阿弥の顔をじっと見つめていた。

呪術的な雰囲気を持っているだけに、その目はすべてを見とおしているようだ。

リリララは阿弥の顔に真剣な視線を注ぐ。

色の薄い唇が開き、低い声が漏れた。

「道はない」

喪助は反射的に聞く。
「なんの」

「お前たちの行く先だ。道が見えない」

ずいぶんいやなことを言う。

リリララは眉をひそめ、喪助と阿弥を変わりばんこに見ている。
「星が悪い。不吉だ、だが」

彼女は急に言葉を切った。

「いや、いい」
「なんだよ」
「道はできる。お前たちが歩けば」

それだけ言ってあとは笑顔で見送ってくれた。


店を出ても、阿弥は首をかしげている。

「なんだろ、今の」
「占いじゃねえの。なんかそれっぽいし」


次の日、喪助は情報通のクラスメイトに聞いてみた。

彼女によると、やはりリリララは占いもすると言う。
気に入った相手しか見ないので商売にはならないが、その的確さは評判だとか。

喪助は占いを信じないから、ただで見てもらってラッキー、くらいにしか思えない。

どんなに悪い星が見えたって知ったことじゃない。
喪助にとっては未来よりも、いま目の前にあるいとしいひとを愛することのほうが大事なのだ。
阿弥のことを考えると今日も快適に過ごせる。

今日はどんな恥ずかしい技で泣かしてやろうか。

たとえばこんなふうなことを。


おしまい


花園番外編 蜜月