蜜月・おまけ
「恥ずかしい技ってたとえばこんなこと」
1
その日、めずらしく部活が早く終わったから。
阿弥はその足で喪助の済む寮に向かった。
「よく来たな」
喪助は両手を広げて迎えてくれた。
「早く入れ」
阿弥はこっそり部屋を覗いた。
いつも膨れっ面で出ていくこの部屋のもうひとりの主は居ない。
「リゼルグは」
「外出中」
「へえ」
これまた珍しい。
しかし、言い訳する手間が省けて願ったりだ。
阿弥だって、リゼルクには悪いと思っている。
去年の夏、こうなって以来、月に五日は必ず彼女を追い払っているのだ。
一度本気で喪助に、菓子折りのひとつももってお礼しなきゃいけないんじゃないかな、
と言ってみたことがある。
喪助は笑って、
「気にするな」と答えた。
「オレたちは遠慮なんかする仲じゃないから」
なんだって。
ほんとうだろうか。
とてもそうは見えないのだけど。
同じ優等生でも喪助とリゼルグでは水と油くらいに違う。
かたや、同性の恋人を持つアナーキストの喪助。
対するリゼルグは生まれたときからの敬虔なカトリック教徒。
普通に考えれば反りが合うはずもない。
喪助は楽天的すぎると阿弥は思う。
いつか絶交されても知らないから。
なんとなくそんなことを考えながら、
阿弥はうれしそうに手招く喪助につれられてバスルームに入った。
部屋でじゃれ合う時は、まずお風呂で洗いっこするのが常だった。
2
「よっと」
背中を流してもらっていると、突然お尻を喪助の膝に抱え上げられた。
今更なので好きにさせるが、内心なにをされるのかはらはらする。
「いつ見てもかわいいなあ」
喪助は阿弥のお尻の肉を両手でたっぷりつかむ。
丸く絞り込むように揉んでいる。
阿弥は飛び上がった。
「きゃあ」
奥まったところに喪助の指を感じた。
周りでくるくる円を描いて刺激している。
「も、喪助」
阿弥は顔だけ後ろに向けた。
「お尻はやだって」
「大丈夫、大丈夫」
なにが大丈夫なんだろう。
こういうときの喪助はほんとうにうれしそうだ。
表情も声も活き活きとしている。
喪助は指先を微妙に動かす。
蕾の皺の一本一本を確かめている。
「ううん…」
阿弥はお尻を動かした。
こんな格好をさせられて恥ずかしい。
でも、へんな気分。
気持ちいいような、悪いような。
次第に前のほうがむずむずしてくる。
「ひっ」
いきなり指先が割り入ってきた。
そのまま、中で掻き回される。
ぐちゅぐちゅと、いやらしい音がした。
前は指先をほんのちょっと入れただけだったのに。
今日は奥まで入れている。
指を曲げてお腹側の壁を擦っている。
擦られているうちにどんどんへんな感じになっていく。
「う、うっ、」
全身に興奮が行き渡り、鼓動が激しくなる。
阿弥はこぶしを握り締めて我慢する。
喪助の歌うような声が聞こえた。
「お前はア○ルっ子なんかじゃないもんなあ」
あんまりな台詞に、阿弥は場所も忘れて叫んでしまう。
「あ、当たり前だ」
喪助はさら大胆なことを言った。
「お○○○のほうが好きだもんなあ」
これには応えられない。
「このど変態」
首を回してせいいっぱいにらみつけてやるが、喪助はびくともしない。
「その顔もかわいいぞ」
いやらしく口元をゆがめている。
喪助は抜き差しを開始した。
ゆっくり奥まで入って、ゆっくり出て行く。
今まで入っていたものが出ていく不安感に、お尻に力が入る。
それでも抜けていく。
その部分が自分の意思と関係なく伸縮している。
すさまじい衝撃に、阿弥は何度も叫びそうになった。
「我慢すんな」
喪助が耳元で囁いた。
別の指が前に押しつけられるのを感じる。
阿弥は大きく息を吐いた。
くちゅり。
恥ずかしい音を立てて、阿弥の蜜源は何の抵抗もなく喪助の指を受け入れていた。
「お尻で感じてるんじゃなくて、皮膚を通してこっちに伝わってるそうだぞ」
壁一枚通して、二本の指が擦り合わされた。
妙な衝動に腰が震える。
「だから安心していっていいぞ」
その言葉が合図でもあるかのように。
阿弥は獣のような声を上げて達した。
3
着衣を整え、ドアを開けてみて驚いた。
部屋の真ん中に、リゼルグが座って優雅に紅茶をすすっていた。
「なんで、お前」
「ここボクの部屋だよ。当然でしょ」
確かに、今日は許可をとっていない。
阿弥はおそるおそる尋ねてみた。
「聞いてたのか」
リゼルグは開いた本から顔を上げずに応える。
「ア○○がどうとかからだけど」
ほとんど全部聞いてたってことじゃないか。
しかし、リゼルグの口からそんな単語が出るとは思わなかった。
意味は知っているのだろうか。
「楽しそうだね、君たち」
「まあな」
喪助が応じる。
「楽しいぞ。ものすごく」
「ふうん」
リゼルクは顔を上げた。
りこうそうな目が光っている。
「じゃあ、ボクも彼女作ろうかなあ」
「えっ」
阿弥はぽかんと口を開けた。
リゼルグは再び本に目を落とし、何事もなかったかのように読みつづける。
阿弥は喪助の顔を見た。
喪助はにやにやしている。
冗談だろうな。
こんな冗談を言うやつとは意外だった。
とにかく、今日はこれでお開きにせざるを得ない。
帰り際、いつものように喪助は頬にキスをした。
「おやすみ、ハニー」
阿弥のほうはリゼルグの存在が気になって、キスを返すことはできなかった。
「おやすみ」
ドアが完全に閉まる前に、リゼルグの声が耳に入った。
「あんまり見せつけないでよ」
「お、やけるか」
「ちょっとだけ」
阿弥なんかから見ると、リゼルグは堅物で面白みのないやつだけど。
喪助にとっては違うらしい。
この二人には二人だけの世界があるのだ。
なんか、ずるい。
阿弥もちょっとだけ、やきもちをやきたくなってしまった。
おしまい