蜜月・おまけ
「恥ずかしい技ってたとえばこんなこと」



その日、めずらしく部活が早く終わったから。
阿弥はその足で喪助の済む寮に向かった。

「よく来たな」
喪助は両手を広げて迎えてくれた。
「早く入れ」

阿弥はこっそり部屋を覗いた。

いつも膨れっ面で出ていくこの部屋のもうひとりの主は居ない。

「リゼルグは」
「外出中」
「へえ」

これまた珍しい。
しかし、言い訳する手間が省けて願ったりだ。

阿弥だって、リゼルクには悪いと思っている。
去年の夏、こうなって以来、月に五日は必ず彼女を追い払っているのだ。
一度本気で喪助に、菓子折りのひとつももってお礼しなきゃいけないんじゃないかな、
と言ってみたことがある。

喪助は笑って、
「気にするな」と答えた。

「オレたちは遠慮なんかする仲じゃないから」
なんだって。

ほんとうだろうか。
とてもそうは見えないのだけど。

同じ優等生でも喪助とリゼルグでは水と油くらいに違う。

かたや、同性の恋人を持つアナーキストの喪助。
対するリゼルグは生まれたときからの敬虔なカトリック教徒。
普通に考えれば反りが合うはずもない。

喪助は楽天的すぎると阿弥は思う。

いつか絶交されても知らないから。


なんとなくそんなことを考えながら、
阿弥はうれしそうに手招く喪助につれられてバスルームに入った。

部屋でじゃれ合う時は、まずお風呂で洗いっこするのが常だった。




「よっと」

背中を流してもらっていると、突然お尻を喪助の膝に抱え上げられた。

今更なので好きにさせるが、内心なにをされるのかはらはらする。

「いつ見てもかわいいなあ」

喪助は阿弥のお尻の肉を両手でたっぷりつかむ。
丸く絞り込むように揉んでいる。

阿弥は飛び上がった。

「きゃあ」

奥まったところに喪助の指を感じた。
周りでくるくる円を描いて刺激している。

「も、喪助」

阿弥は顔だけ後ろに向けた。
「お尻はやだって」
「大丈夫、大丈夫」

なにが大丈夫なんだろう。
こういうときの喪助はほんとうにうれしそうだ。
表情も声も活き活きとしている。


喪助は指先を微妙に動かす。
蕾の皺の一本一本を確かめている。

「ううん…」
阿弥はお尻を動かした。

こんな格好をさせられて恥ずかしい。
でも、へんな気分。
気持ちいいような、悪いような。
次第に前のほうがむずむずしてくる。

「ひっ」

いきなり指先が割り入ってきた。

そのまま、中で掻き回される。
ぐちゅぐちゅと、いやらしい音がした。


前は指先をほんのちょっと入れただけだったのに。
今日は奥まで入れている。
指を曲げてお腹側の壁を擦っている。

擦られているうちにどんどんへんな感じになっていく。

「う、うっ、」

全身に興奮が行き渡り、鼓動が激しくなる。
阿弥はこぶしを握り締めて我慢する。

喪助の歌うような声が聞こえた。
「お前はア○ルっ子なんかじゃないもんなあ」

あんまりな台詞に、阿弥は場所も忘れて叫んでしまう。

「あ、当たり前だ」
喪助はさら大胆なことを言った。
「お○○○のほうが好きだもんなあ」

これには応えられない。

「このど変態」
首を回してせいいっぱいにらみつけてやるが、喪助はびくともしない。
「その顔もかわいいぞ」

いやらしく口元をゆがめている。

喪助は抜き差しを開始した。

ゆっくり奥まで入って、ゆっくり出て行く。
今まで入っていたものが出ていく不安感に、お尻に力が入る。
それでも抜けていく。

その部分が自分の意思と関係なく伸縮している。

すさまじい衝撃に、阿弥は何度も叫びそうになった。


「我慢すんな」
喪助が耳元で囁いた。

別の指が前に押しつけられるのを感じる。

阿弥は大きく息を吐いた。

くちゅり。

恥ずかしい音を立てて、阿弥の蜜源は何の抵抗もなく喪助の指を受け入れていた。

「お尻で感じてるんじゃなくて、皮膚を通してこっちに伝わってるそうだぞ」

壁一枚通して、二本の指が擦り合わされた。

妙な衝動に腰が震える。

「だから安心していっていいぞ」

その言葉が合図でもあるかのように。

阿弥は獣のような声を上げて達した。



着衣を整え、ドアを開けてみて驚いた。

部屋の真ん中に、リゼルグが座って優雅に紅茶をすすっていた。

「なんで、お前」
「ここボクの部屋だよ。当然でしょ」

確かに、今日は許可をとっていない。

阿弥はおそるおそる尋ねてみた。
「聞いてたのか」

リゼルグは開いた本から顔を上げずに応える。

「ア○○がどうとかからだけど」

ほとんど全部聞いてたってことじゃないか。

しかし、リゼルグの口からそんな単語が出るとは思わなかった。
意味は知っているのだろうか。

「楽しそうだね、君たち」
「まあな」
喪助が応じる。
「楽しいぞ。ものすごく」
「ふうん」
リゼルクは顔を上げた。

りこうそうな目が光っている。

「じゃあ、ボクも彼女作ろうかなあ」

「えっ」
阿弥はぽかんと口を開けた。

リゼルグは再び本に目を落とし、何事もなかったかのように読みつづける。

阿弥は喪助の顔を見た。
喪助はにやにやしている。

冗談だろうな。
こんな冗談を言うやつとは意外だった。

とにかく、今日はこれでお開きにせざるを得ない。


帰り際、いつものように喪助は頬にキスをした。
「おやすみ、ハニー」

阿弥のほうはリゼルグの存在が気になって、キスを返すことはできなかった。

「おやすみ」
ドアが完全に閉まる前に、リゼルグの声が耳に入った。

「あんまり見せつけないでよ」
「お、やけるか」
「ちょっとだけ」


阿弥なんかから見ると、リゼルグは堅物で面白みのないやつだけど。
喪助にとっては違うらしい。
この二人には二人だけの世界があるのだ。

なんか、ずるい。

阿弥もちょっとだけ、やきもちをやきたくなってしまった。


おしまい