これが幸せ。
「喪助ってスタイルいいよね」
それは、昼さがりの教室で発せられた何気ない一言。
「モデルになればいいのに」
喪助は笑って応じる。
「だめだめ」
「もったいないじゃん」
「全然ダメ」
よく言われるんだよね。女優さんみたいだとか、外人混じりなんじゃないかとか。ほんと、困っちゃうな。
「なんで。絶対いいって」
「オレ、肩幅広いし」
もちろん謙遜。あんまり言うと嫌味かな。
「お尻が大きすぎるし」
謙遜だけど。
「ゴツイからさ」
ちょっと事実ではある。日本人の少女にしては喪助は大きい。
目の前の少女は「ああ、そうかも」という顔をした。いやなやつだ。
そのとき後ろの席から聞こえたのは耳に心地よいハスキーボイス。
あくまでも淡々と、至極当然のことのように。
「お前をゴツイなんて言うやつはバカだろ」
「阿弥ちゃん」
喪助は立ちあがる。何事かと身構える阿弥をいきなり抱きすくめる。
「好きだっ」
「なにすんだ」
お世辞の言えない彼女の素直な言葉。
ほかのやつのより何百倍も何千倍も尊い。
喪助はきつく抱きしめる。
「阿弥ちゃんこそ、世界で一番綺麗だよ」
みんなに聞こえるように宣言する。
たちまち阿弥の顔は真っ赤になる。
「オレなんかの何百倍も何千倍も綺麗」
「やめろ、バカ、はなせ」
「ハイハイ」
聞きなれたピリカのため息が耳に入る。
「勝手にやって頂戴」
うん、勝手にやる。
喪助はますます力を込めて、暴れる恋人のからだを抱擁した。
おしまい
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