夏の夜
海が見える。
駅を降りるとすぐに潮の香りがした。
「いいところだ」
たまおはうれしそうに「はい」と応えた。
真夏だというのに、吹く風はひんやりとしている。
この海岸のある町で、たまおと一緒に過ごす。
それがうれしい。
ふたりが出会ったのは3ヶ月前の入学式だった。
ある日、いつものように竹刀を振っていた阿弥は人の気配を感じた。
窓からひっそりと阿弥を見ている少女がいる。
その日はたいして気にしなかった。
毎日彼女はいた。
たまに阿弥と目が合うと、慌てて頭を引っ込めた。
その様子がかわいくて、なんとなく忘れがたくなった。
少女はたまおといって、阿弥のクラスメイトだった。
あまりにおとなしいので知らなかったのだ。
(君、オレを見てたろ)
声をかけると、たまおは(きゃっ)と飛び上がった。
本当に目を丸くしたのだ。
阿弥は笑ってしまった。
(取って食いはしないよ)
(ごめんなさい)
(謝らなくていい)
その日から、二人は親しく言葉を交わすようになった。
(オレなんか見て面白いかな)
(あなたがあんまり熱心に練習されているので…)
(そんなら、もっと近くで見ていいのに)
(いえ、私は…)
見つめると、すぐに恥じてうつむいてしまう。
ほんのり染まった白い頬に長いまつげが影を落としてている。
ぷっくりとした桜色の唇がかすかにおののいている。
触ってみたい、と思った。
人気のない図書室で、阿弥はいつのまにかたまおの手を取っていた。
ふたりははじめて唇を触れ合わせた。
ふたりは人目をしのんで、何度も接吻をした。
昼休みの屋上で。放課後の裏庭で。
唇を軽く重ねあった。
やがて夏休みが始まる。
たまおは祖母の家に行ってしまう。
阿弥は離れがたかった。
(手紙書きます。毎日)
たまおが遠慮がちに言ったが、阿弥は断った。
(オレは手紙なんて書けないぞ)
そして決意した。
(練習はやすみにする)
(え)
(君と一緒に行く)
だめか、と尋ねるとたまおはまたうつむいた。
そして、泣きそうな顔で、(はい)と言った。
たまおの祖母の家は、他の家から一件だけ離れて立っていた。
木造で古びているが上品な家だ。
おばあさんも、その家に似合った、ちいさな、やさしそうな人だった。
(今日はもう遅いからお風呂に入ってお休み)
(一緒に入ろう)
たまおは顔を真っ赤にして拒んだ。
(約束、覚えてないのか)
(あっ)
たまおは頬を赤らめた。
ふたりのひめやかな約束。
(この夏はできるだけ一緒にいよう)
そしてもうひとつ。
ふたりがもっと近しくなるための夏だった。
ふたりにあてがわれたのはその家の一番奥の日本間だった。
畳も青々としているし、障子も新しく張ってある。
窓の側には古風な机が据えてあった。
しっとりと涼しい晩だった。
窓には月の光が流れ入っている。
布団を並べる。
部屋も、外の景色も気に入った阿弥だが、布団だけは気に障った。
こんなに薄い布団を見たのは初めてだ。
たまおが恐縮する。
「こんなのしかなくて」
阿弥は笑って見せた。
「すぐ慣れるよ」
電気を消す。
月の光のみが部屋を照らす。
布団の上で、ふたつの唇が近づいた。
そっと触れる。
頬を両手で挟み、深く重ねていく。
「うん…」
長いあまりに長い口付けにたまおが苦しげな息をつく。
阿弥は手を滑らせる。
背中から腰へ。そしてまるいお尻へ。
やさしく撫でると、たまおはいやいやするように首を振った。
腰紐を解き、浴衣をはだける。
白い肌がぼんやりと浮かび上がる。
ふたつの膨らみに手を伸ばした。
あまりの可憐さに揉むなんてとてもできない。
さするように愛撫する。
たまおは顔をそむけてじっとしている。
さすりながら、乳首を口に含んだ。
軽く吸い、舌で転がす。
「いや…」
たまおが声を漏らした。
阿弥は口を離して笑う。
「いやじゃないだろ」
薄い色の突起がぷっくり立ちあがっている。
「こんなにしてかわいいな」
阿弥はそれを指ではじく。
摘んで弄ぶ。
たまおは身をひねる。
「やめて…」
肌がうっすらと桜色に染まっている。
良い眺めだと思った。
おへそに触れると、細いからだがびくりと震えた。
縦長のおへその周りを舌でたどる。
どんな感じなのかはわからないけど、ここも気持ちよさそうだ。
舌を差し込んでみる。
「だめ」
すこし強い声がした。
「汚いです」
「汚いことなんかしないぞ」
そのまま軽くなめる。
腰が小刻みに動いている。太ももが擦り合わされる。
乳首よりも鋭い反応を見せるのに驚いた。
阿弥の行為は大胆だった。
この日のために特別に用意したのだろうか。
レースに縁取られた可憐な下着に手をかける。
両手で引き下ろしてしまう。
たまおは拒まない。
阿弥はじっと見つめた。
白いからだの、一点だけがほんのりと翳っている。
自分と同じもののはずなのに、なんだか感動的な光景だった。
そこに手を伸ばす。
綿毛はとてもやわらかくて感触が良い。
その下の肉もとろけそうにやわらかい。
指先を潜り込ませる。
既に湿り気を帯びていた。
意外な気がした。
「ちゃんと濡れるんだ」
「やめてください」
足を閉じようとしたので、両手で押しとどめる。
「だめ。これからなんだから」
そう言って、そこに顔を近づけた。
ヒッ、と引き攣ったような声がした。
なだらかな肉のうねりを舌でたどる。
最初はすこし石鹸の味がしたが、やがてあとからあとから溢れ出す液の味に紛れてわからなくなった。
百合の花のような清浄な匂いがするのが不思議。
隠れていた芯を剥き、軽くつついた。
「あっ」
高い声が上がった。
「そこ、駄目…」
「良いのか。もっとしてやる」
口に含んで強く吸った。
「あ、あ、あ」
腰が浮き上がる。お腹が激しく上下している。
転がすだけでは足りず、歯を立てた。
「ひ、」
たまおは短く息を詰まらせて硬直した。
たまおの息が収まるのを待って、隣に横たわる。
顔をのぞき込む。
「すごくかわいかった」
たまおは横を向いてしまった。
阿弥はさらに言う。
「敏感なんだな」
「やだ」
腕枕してやる。
たまおはようやく安心したらしい。
からだを摺り寄せてくる。
阿弥はもう片方の手で猫の子にするように背中を撫でた。
「明日もしような」
たまおはタオルケットをかぶった。
タオルケットが揺れた。
いやいや、と首を振ったようだった。
阿弥は吹き出した。
「絶対するぞ」
断言すると返事も聞かず、「おやすみ」と頭にキスして目を閉じた。
おしまい