予定外の出来事

朝、目が覚めたら。
男になっていた。
ぐちゃぐちゃの頭のまま、とりあえず父の服を拝借して恋人の部屋へ向かった。
たたき出されて塩を巻かれるかと思ったけれど喪助はあっさり部屋に通してくれた。
「しっかりしろよ。オレもできるだけ協力するから」
そういってはげましもしてくれた。
喪助がいつになくやさしいのがかえって不安だ。
だって、オレはお前が嫌いな種族になっちゃったんだぞ。
「お前」
おそるおそる切り出す。
「男は嫌いだろ」
「そうだよ」
あっさりと喪助は応えた。
「男はくさくてキタナイからきらい」
阿弥はうつむいた。
だが、喪助はにっこり笑った。
「お前は違うだろ」
顎に手を当て、顔を上げさせる。
「お前、かっこいいよ」
真正面から見つめるいたずらそうな瞳。
「見たところ体毛薄そうだし」
顎をするりと撫でる。
「においだってそんなにないだろ」
言いながら両手を首にかけ、からだを預けてくる喪助を受け止める。
軽々と膝に抱き上げられて喪助はため息まじりに呟いた。
「お前、オレより大きいな」
「もともとそんなに変わらないだろ」
「ん。厚みが違ったからな」
特に胸と尻。そう言って喪助は笑った。
「ばか」
喪助はくったくがない。
「でも」
どうしても気になること。
「もう愛しちゃくれないだろ」
「バカ」
喪助はちょっとだけとがめるような顔をした。
「中身はお前だろ」
にらまれる。
「そんなにオレが信用ならねえか」
しかし。
喪助が男嫌いなのは今に始まったことではない。
そのわけを知っている阿弥は、どうしても心配で。
「お前ならいいんだ。証拠みせようか」
そう言って、喪助は阿弥の膝から降りた。
屈み込んで阿弥のズボンのジッパーに手をかける。
「ちょっと待て」
阿弥は慌てる。
まさかいきなりそこにいくとは。
さすがは喪助。予想がつかない。
「お」
喪助は感嘆の声を上げる。
「立派じゃねえか」
自分でさえぎょっとしたのに。こんなへんなものがついてるなんて。
「さすがオレの阿弥ちゃん」
しげしげ見つめられて、阿弥は頬を染めた。
立派なほうがいいのかと尋ねれば「親指大はカンベン」だって
なに言ってんだコイツ男嫌いのくせにと阿弥は呆れる。
喪助はいきなりそれを握りしめ、擦り始めた。
「やめろって」
「今更何を。いつもしてやってるだろ」
確かにそうなのだが、大きく違うような気がする。
「うーん。あんまり堅くなんないな」
真剣にそれを扱っている。
阿弥はどうしていいのかわからなかった。
「やっぱ、こうかな」
「あっ」
喪助はそれに口をつけた。
思わず腰が浮く。
桃色の舌が棒を丁寧に舐め上げ、先端をちろちろとくすぐる。
喪助は一度口を離し、阿弥を見上げてちらりと笑った。
しかし舐めるだけで、口に含もうとはしない。
中途半端な刺激が繰り返し阿弥の下半身をおそう。
徐々に膨らんでいく下の熱さとともにこみ上げてくる感情。
「お前」
髪をつかんで顔を上げさせる。
「男にもこいういうことできるわけだ」
ジェラシーを感じる。
男の自分に。おかしいけれど。
だけど喪助はしらっとして。
「ほかのやつのは一千万もらってもやだけどな」
誤解されちゃ困るけど、チンコだってお前のしか舐めないぞ
なんて恥ずかしげもなくさらりという喪助に阿弥のほうが赤面してしまう。
「このままいかせてやろうか。それとも中がいいか」
「中って」
「決まってるだろ」
ここ、と指で示す。
「そんな、お前、だって」
しどろもどろになっている。
「なんだよ。せっかくついてんだから使わなきゃ損だろ」
むちゃくちゃ言っているようで妙に合理的にも思える。
「これならやってるほうも気持ちいい。うまくいけば一石二鳥だろ」
喪助はこれをディルドーの代用品と思っているのだろうか。
「でも、その」
「いいんだよ」
どうしても納得がいかない阿弥に、喪助はにっこり笑ってみせた。
「これまでと同じこと。全然違わない」
それでも、喪助を組み敷くのには抵抗がある。
「男と女になったからって抱いたとか抱かれたとかじゃない」
喪助は受身はいやだって知ってるから。
「『愛し合った』だろ。オレたちは」
その一言で。
阿弥は覚悟を決めた。
喪助を抱き上げ、横たえる。
その上に重なりながら、念を押す。
「ほんとにやるぞ」
すこしでもいやがるそぶりを見せたらやめるつもりだったのに。
喪助は不敵に笑った。
「カマン」
指を立てて挑発する。
もう、後には引けない。

なんともつかみがいのあるおっぱいを両手でわしづかみにする。
やわらかい。
やわらかくてなんともいえない弾みがある。
たっぷりと握ってこね、またつかみなおす。
乳首に吸いつく。
舌で転がしながらたっぷり味わう。
そうしながら片手で全身を撫でまわす。
両手で寄せて顔を埋める。
ああ、こいつ柔らかいなあ。
お互い女のときはずいぶん厚みがあるように感じたけれど。
今、こうしてみると腰は細いしお尻は柔らかいし。
すごく気持ちいい。
くびれたウエストに腕を回すと、からだとからだがぴったりとはまっている感じがする。
「素敵なからだだ」
「生意気なんだよ」
喪助はたしなめるように笑った。
「阿弥のくせにさ」
からだを割り込ませ脚を開かせると喪助がわずかに身を縮める。
まだ十分に潤っていないそこに口をつける。
ふっくらとした丘に舌を這わせ、焦らしながら徐々に中心へと向かう。
「阿弥」
髪を引っ張られて顔を上げると見なれたいたずら坊主の顔。
「上手くなったじゃねえか」
あくまでも強気の表情だ。崩してやりたくなる。
一番敏感な部分をその周りごと口に含むといきなりきつく吸った。
突然の強い刺激に喪助の背中がのけぞる。
反射的に閉じようとする太股を押し開き、すぐに堅くしこってくる芯を舌でつつく。
蜜壷に指を差しこみ、内側からも刺激を与える。
ついに、きつく結ばれた唇の隙間からから低く甘い声が漏れた。
「ああ…っ」
喪助はあまり声を出さない。
だからこそ。
耐えきれずに漏らした声を聞くのはうれしくて。
いつも、腰にずくんとくる。
夢中で際限なく溢れ出す蜜を味わい舐め取っているとやがて喪助のからだが
伸びきり、ぶるぶる震えて硬直した。
このままあと数回いかせてやりたかったのだけど無理みたいだ。
阿弥は顔を上げると両手で腰を抱いた。
押しつけられるものの熱さを感じたのだろう。
荒い息を吐いていた喪助が阿弥を見上げた。
もう耐えきれない。
途中でせきとめられた欲望がずきずきと痛み、はけ口を求めている。
阿弥は自分の下敷きになっている喪助のからだを見つめる。
すでに女として熟れきった、完璧な裸体。
いいのだろうか。
この欲望を、こんなに綺麗なからだにぶつけてしまって。
「喪助、ほんとうに」
喪助は笑った。
両手を広げる。
「おいで、阿弥」
その笑顔は阿弥から最後の逡巡を奪い去った。

両足を抱える。
位置を確認してゆっくり身を沈めていく。
喪助は歯を食いしばり、拳を握りしめている。
根元まで押し込むといったん動きをとめた。
喪助は堅く目を閉じていた。
じっとりと汗ばんだ額に髪が張りついている。
「喪助」
蒼白の頬に口付け、やさしく囁く。
喪助の目が薄く開く。
「ひどくつらいか」
繋がった部分から早い鼓動が流れ込んでくる。
まるで傷口のようにどくとどくん疼いている。
喪助は眉を寄せたままの顔で笑った。
「お前がよければいいんだよ」
我慢してるのが伝わる。
オレだから受け入れてくれている。
いとしくてたまらないお前。
できるだけよくしてやりたい。
きつい締め付けにすぐにでも達してしまいそうになる自分をぎりぎりで押さえる。
やわらかすぎて滑り落ちそうになるお尻をしっかりとつかみ、腰をさらに持ち上げると
浅く激しく抽送した。
喪助はしばらくきつく目をつぶっていたが、やがて息を乱し出した。
深く抉ると、ひくりと肩がはね上がった。
もっと突いてみると、さらにはねる。
楽しくなってきた。
弱いところを探し突きまくる。
次第に熱に浮かされたような声が漏れ始めてくる。
「待って」
喪助がもどかしそうに腰をゆする。
「そこ」
熱いものがこみ上げてくるのを我慢しながら阿弥は素直にそこを突く。
限界は近い。
喪助の腰が浮き上がった。
「ん、んっ」
背中にすがる力が強くなる。
あたたかな壁がきつく閉じる。
もう我慢できない。
からだの中でなにかが弾けた。
脳天からつま先まで一気に駆けぬける快感としか言いようのない感覚。
頭の中が真っ白になるほどのエクスタシー。
すこし遅れて喪助が身を震わせた。

「はあ」
紅潮した顔で息を吐く喪助をきつく抱きしめる。
「なんてかわいいんだ。お前は」
からだの底からこみ上げてくる感情に声が震える。
「したくてどうにかなりそうだ」
喪助は目を白黒させている。
喪助が自分の動きに応じて動いてくれる。病み付きになりそうな満足感。
もっともっと躍らせたい。
もっともっと気持ち良くさせたい。オレを感じさせたい。
「オレはもっとお前の中にしたい。口にもお尻にもしたい」
「お前なあ」
露骨な要求に喪助はあきれ顔だ。
「もちろんお前をいかせるのに努力は惜しまない。何時間だって…」
「もういい。黙れ」
柄にもなく照れた顔でさえぎる。
「こんな絶倫だったとはな」
ため息をつく。
「やろう。何回でも何十回でも」
「ア○ルはカンベンな」
オレは痛いのいやだから。とさっそくおっぱいを揉み出した阿弥に命じる。
阿弥はおう、わかったと応えて喪助を押し倒した。


「おい、喪助」
何度呼んでも返事はない。
「あーあ」
阿弥はひどい状態になった喪助を見つめる。
局部や太股はもちろん、口や胸やお尻(いやがられたが無理やりこじ開けた)まで
粘液にまみれている。
やりすぎた。
最初のニ回ほどは喪助はつきあってくれた。
慣れないなりに一生懸命腰を動かして誠心誠意感じようとしてくれていた。
それがうれしくて、ついつい羽目を外してしまったわけだが。
限度がある。さすがに反省する。
日々鍛えている阿弥と文科系の喪助では勝負にならないのは当然ではないか。
これからは気をつけないとな。
そんなことを思いながらタオルを取り、喪助のからだを拭い始めたとき。

「gawd!!!!」

声にならない声が静寂を切り裂いた。
振り向いて、阿弥は絶句する。
両手に大きなボストンバックを下げたリゼルグが蒼白な顔でベッドの上の二人を
見つめていた。
「リゼルグ、これは」
起きあがろうとして自分の格好を思い出し、あわててシーツをたぐりよせる。
その隙をリゼルグは逃さなかった。
コートのポケットから黒光りするものを取り出し、阿弥の胸に狙いを定める。
まるで映画のワンシーンだ。
阿弥はただ見つめていた。
復讐に燃えるアメリカ娘のように彼女が叫ぶ。

「Go to hell!!!」

耳をつんざくような銃声。
熱い衝撃と、胸を貫く痛み。

「damnit you moron!」

吐き捨てると、阿弥にはもう目もくれず喪助に駆け寄るリゼルグ。
彼女にとってはゴミほどの価値もない。
なにしろ大事な友人を強姦した鬼畜野郎なのだから。
そんな彼女の姿がどんどんかすんでくる。
力が抜ける。
血が流れていく…。
薄れゆく意識の中でいやに頭が冴えてくるのを感じた。


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「そりゃ、リゼルグに憎まれてるって思ってるんだろ」
ベッドの中で指摘されてやっぱりそうかなとうなだれる。
「それと、オレと本番ヤリたいってことだな」
なんなら今度;レ○バンドでヤラせてやろーかとにやにやする。
「あれはヘンタイみたいだからまだやってねーけどお前が望むならしゃーねーな」
ほんとはしたいんだろ。今更なに言ってんだ。
こんなへんな夢の話は理想的なピロートークとは言いがたいのに、
喪助はいやにうれしそうだ。
そんな喪助を軽く睨んで阿弥は尋ねる。
「もし、正夢だったら」
お前ヤラせてくれるかとわざと下品な言葉を使うと喪助はますます喜んで
「大サービスしてやるぜ」
一生懸命しゃぶってみせるからと際どい台詞で返す。
自分で言い出したくせに阿弥は赤面した。なんてやつだ。
「でも女のほうがいいぞ」
そういって胸をもみもみする。
一度済ましているのに、まだ足りないらしい。
「このかわいいおっぱいがないとさびしい」
「オレだって殺されたくないよ」
「あいつそういう役似合いそうだな」
喪助はくつくつ笑う。相変らずおっぱいは揉んでいる。
だんだん気持ち良くなってくる。先端をつままれると背筋に軽い電流が走る。
まぎれもない女のからだ。このほうがいい。
あんなのじゃ愛し合ったとは言えない。
「お前を傷つけるからだはごめんだ」
「ん、なんだって」
答えを促す喪助に「なんでもないよ」と残して阿弥は目を閉じた。


おしまい