予想外の出来事 2


派遣組の中はなんなくいやな空気が流れていた。
ボクと火讐くんがうまくいっていないと誰もがギスギスしている。
火讐くんを探すと、彼は部屋の隅でカチカチとライターをいじっている。
これはイライラしたときの癖。
彼にとっても居心地のよい派遣組ではなくなった様子だ。

「あ、兄貴」
「悪いが、お前ら、ちょっと席を外してくれ」

そう言うと、火讐くんも出て行こうとする。

「お前は残れ」
「はい」
「こっちを見ろ」

火讐くんはどんな顔をしていいのかわからないって感じ。

「あいつらとうまくいってないようじゃな」
「兄貴は心配しなくていいですよ」
「お前がオイによそよそしいからあいつらも遠慮してるんじゃろう」
「オレが兄貴のこと忘れたから、ですね」

しょんぼり落ちる肩に手をかける。

「思い出さなくていい。お前の心が壊れたら大変じゃ」

でも、ともの問いだけな唇を見つめて。

「思い出さなくていいから」

手に力をこめる。

「これから好きになってくれ」
「兄貴?」

不安げに顔を上げる火讐くん。

「はっきり言う。お前が好きじゃ」

火讐くんの綺麗な目がいっぱいに見開かれる。

「お前なしでは生きられない」
「兄貴、それは」

身の危険を感じたらしく逃げかけるのを構わず抱きしめる。

「・・・・・・舎弟達に見られる・・・」 
「かまわん」
「だめです・・・兄貴が、そんな・・・」

う、不謹慎だけど、かわいいじゃないか・・・!

「オレは、兄貴にそんなことしてほしくない・・・」
「オイがいやか?」
「いやじゃない!」

そんなことはわかってるのに、卑怯だと思う。

「男同士じゃ気持ち悪いか」
「気持ち・・・悪い・・・はずなのに・・・」

火讐くん、悔しそうに下を向いて。

「悪くないから、困りやす・・・」
「火讐・・・」

唇を噛み締める火讐くんに、チュ、と音をたててこめかみにキスする。
火讐くんはあっけにとられた顔で、次の瞬間には振り払おうとする。

「だめ、やめてください」

こんなに嫌がられるってショックだ。
やっぱり、いきなり大胆過ぎたかな。

「体が欲しいわけじゃない」
「違う。オレの体なんか、全然、兄貴の好きなように・・・」

頭を振る。

「いや、なに言ってんだ、オレは・・・」

激しく混乱しているのがわかる。

「男同士で、そんなっ、・・・む、むりでしょう・・・?」

目を一杯に見開いて、問い掛ける顔でボクを見ている。
いつもよりずっとおさなく見えるその顔を、
すごくかわいいと思ってしまう自分を叱りながら、慎重に答える。

「やってみなければわからんぞ」
「男が男に、そんな・・・兄貴が、そんなこと・・・
ああ、頭ぐちゃぐちゃになりそうだ」

とうとう頭をかかえてしまった。
わぁ、生のBLだ!
申し訳ないけど、萌えてしまう。

「試してみるか?」
「え?」
「火讐、目、つぶってくれ」 
「え、えええ・・・あ、はい・・・」

子どものようにきゅっと目を瞑る火讐くんの唇に、そっと、触れるだけのキスを落とす。

「どうだ?」

火讐くんはぼんやりしている。目の焦点が合っていない。

「気持ち悪かったか?」

再度尋ねると、はっとしたように口に手をあて、黙って首を振った。

「むしろ、気持ち、よかったかも・・・」 

その手を胸において、またきゅっと目を瞑る。
あまりのかわいさに、つい、ぎゅっと抱きしめてしまう。
それでも、やっぱり逃れようとする。その力はだいぶ弱くなっていたけれど。

「ああ、兄貴、だめ、だめです!」
「火讐!?」
「き、きす以外は、だめですっ」 

そんな台詞!!
火讐くんの口から聞けるとは思わなかった!

「おかしい、こんなのっっ」

かえすがえすも不謹慎だけど、
翻弄される火讐くん萌ええぇ!

「オレ、きっとヘンになっちまう・・・!」
「へんになれ。へんになったお前が見たい!!」

わわ、ボクなに言ってんの!?

「兄貴は百人女知ってるんでしょう」
「・・・オイがなにを言っても嫌わないと言ってくれ」
「なにを?」
「頼む」

拝むように頭を下げる。
前にも同じようなことを言った。そのときは。

「オレが兄貴嫌いになるわけないです」

ああ、やっぱり。あのときと一緒だ。

「あれはホラだ」
「ええ!?」
「本当は、手も握ったことない。こんな気持ちになったのはお前がはじめてじゃ」

考えて、素直に伝えるのが一番だと思った。
火讐くんならきっと受け入れてくれる。

「兄貴・・・兄貴は男のほうが・・・」
「今まではそういうこともなかったんじゃが、そうなのかもしれん」
「お前がかわいくて仕方ない」

これは本心だ。

「オイは黙したままお前を失うより、こうして思いを伝えるほうを選ぶ。たとえ玉砕しても」
「漢だから!」

お、なんか火讐くんらしくなってきたぞ。

「ああ、男だからじゃ」
「兄貴のお気持ち、わかりやした」

まっすぐにボクの目を見つめる。

「オレも覚悟を決めます。ただ、時間をくだせえ」 

その声は、もうきっちり男らしかった。

「気持ちの整理をつけたいんです」
「火讐」
「大丈夫です」

照れ笑いしながら、それでも晴れ晴れとした顔で。

「なにがあっても、オレは兄貴を嫌いになったりできません」

信じられる。火讐くんだから。

「兄貴、明日、良かったらオレの家に着てくだせえ」

予想外の出来事3へ続く


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