花園3

1
夏休みは終わった。
ほとんど外出していないが、充実した夏休みだったと喪助は思う。
なんといっても恋人と過ごした初めての夏なのだ。
学校と寮の行き来だけでも十分に楽しかった。

九月のはじめの金曜日。
いつものように部活帰りの阿弥を寮の部屋に誘った。

例によってリゼルグを追い出し、喪助は阿弥を引っ張り込む。

見ると、バスルームのドアから湯気が出ている。
リゼルグはお風呂に入るつもりだったらしい。
当然、これをほうっておく喪助ではない。
せっかくだから使わせてもらおう。
「久しぶりに一緒に入るか」
そう誘うと、阿弥は意外なほどあっさりとうなづいた。


二人でバスルームに入ると、喪助はさっそく行動を開始した。
「洗ってやるよ」
「お前が洗うだけですむはずない」
そうは言っても、阿弥はどこか期待しているような態度だ。

こんなの、阿弥らしくない。
喪助の中でもやもやが生まれる。

「そう言うなって」
たっぷりとタオルに石鹸を泡立てる。
「ほれ、背中出せ」
阿弥はマットに膝をついて背中を向ける。
なめらかな背中を泡立てたタオルで力を込めて擦ってやる。
「上手だな」
けっこう気持ちいいらしい。機嫌のいい声を出す。
喪助は手を前に回して胸をつかむ。
そのまま、すべりの良くなった手で揉む。
「もう、お前はそれだから」
甘えを含んだ声も、かわいいけどらしくない。
「これくらいスキンシップのうちだろ」

手のひらを大きく開き、全体を包み込んで斜め下から揉む。
下から上に向かってソフトに押し上げつつ、指を動かす。
これが一番気持ちいいらしい。

阿弥がおとなしいので、喪助はちらりと顔を覗きこむ。

阿弥は目を閉じていた。
うっとりと、喪助の動きに身を任せているようだ。
たいした進歩である。2ヶ月前ならこぶしが飛んできていた。

やっぱり物足りない。

いやがる顔がみたい。泣かせたい。
喪助は視線を白いなめらかな背中に這わせた。
くびれた腰の下にあるぷりぷりとしたお尻。

喪助はこのお尻も好きだった。撫でまわしてみたいと思っていた。
触ったら「痴漢」とか言って殴られるに違いないからまだ実行していない。
喪助はにやりとした。

てのひらをいっぱいに開き、両手でお尻の山の一番高いところをつかむ。
思いきりつかんで力を込めて揉む。
肉が動く感触を確かめながらじっくり動かす。

「やだ、なにしてんだよ」
阿弥は手をついて逃げようとしている。
しかしかえってお尻を無防備な状態にしてしまった。

喪助の目の前でお尻の谷間が開いたり閉じたりしている。

「お尻が丸見えだぞ」
いじわるく囁く。
「いやあ」
もう泣き声になっている。

喪助はぞくぞくするのを感じた。
そう、これが聞きたかったのだ。

喪助は二つの小山をつかんで思いっきり広げた。
こうすると奥の蕾がよく見える。
内側の、ピンク色の粘膜までもが目に入ってくる。

「阿弥ちゃんはお尻の穴まで綺麗だな」
「う、うっ」
阿弥がお尻をくねらせた。
全然わかっていない。
こんなに扇情的な光景はないというのに。
喪助のボルテージはさらに上がった。
もう、とことんかわいがってやらないと気がすまない。


蕾に指を当てた。
じわじわめり込ませるようにゆっくりと挿入する。
さすがにきつい。肉がぎっちり詰まっている感じがする。
第一間接まで入れて、指を動かす。
はじめは小刻みにバイブさせて、次に中で大きく円を描いた。
左右に引っ張り大胆に掻き回す。

愛撫しているうちに、いつしか阿弥はすすり泣いていた。
浴室に切ない声が響く。

痛いんじゃないな、この声は。

喪助は左手で前に触れてみた。
柔肉が熱く火照っている。
そういえば阿弥の鼓動は激しく、息遣いも荒くなっている。

耳元に顔を寄せ、わざとあきれたように言う。
「へえ、お前、お尻もいいんだな」
「やめろ」
お腹から振り絞るような声。それはもう悲鳴だった。
喪助はますますうれしくなる。
「こっちでもいけるんじゃないか」
そう言って中を痛めないようにゆっくり、指の付け根まで挿入する。
そして一気に引きぬく。
「あ、あ、」
背中がそった。
何度か抜き差しする。
そのたびに阿弥は悲鳴を上げて震え、やがてひときわ大きく震えるとぐったりと上体を落とした。


奪っても奪いきれない、いとしいお前。


「すげえな。こんなとこでいくなんて」
阿弥を仰向けにして脚を開かせる。
笑いながらシャワーを取った。
「とろとろになってるとこ、きれいにしてやるよ」
お湯の温度を体を洗うときよりもぬるめにする。
そして、阿弥のすっかり潤った柔肉に当てた。

「う、」
ぴくり、と阿弥の腰がはねる。
はじめはゆっくり円を描き、高まってきたところで刺激部分をはずす。
何度も焦らしていくと、腰が浮き上がってきた。

喪助はてのひらを吹き出し口に覆いかぶせる。
わずかに開いたスペースから放出されるお湯の勢いが増す。
それでちいさな棘を責める。
「あ、あうっ」
今まで聞いたこともない声だった。
阿弥はあっという間に果ててしまった。


「はい、お疲れさん」
喪助はにやにやしながら顔を覗きこんだ。

阿弥はうっすらと目を開けているが、その目になにも映っていないようだ。
「今日はすごかったな、お前」
さらにからかう。

長いまつげがまたたいた。
目に、正気の光が戻る。

「喪助」
「なんだ」
「お前とは絶交だ」
冷静な声だった。
喪助は返す言葉に詰まる。
阿弥はさらに言う。
「2度と、お前にさわるな」
「阿弥ちゃん」
阿弥は立ちあがり、振り向かずにまっすぐバスルームを出た。

ひとり取り残された喪助は、
ただ言葉もなく阿弥の出ていったドアを見つめるだけだった。



2
翌朝。
白い壁に壮麗な聖画がかかった教会風の造りの食堂では、
中等部から高等部の生徒たちおよそ百人が、
すでにきちんと制服を身につけて食事をとっている。

そんな中、女王たる喪助は珍しく取り巻きなしでしょんぼり座っていた。

周囲の視線を感じる。
いつものような羨望の眼差しではない。

当然だろう。
ただでさえ響きがよい浴室で、あれだけの声を上げたのだ。

「ボクだって恥ずかしいんだからね」
昨夜、戻ってきたリゼルグはいつにもまして不愉快そうだった。
「ボクが出してるって思われたらどうすんのさ」

階下の自習室にいたリゼルグにも聞こえていたということだ。
向こう三軒両隣に筒抜けだったに違いない。

喪助のファンの下級生には、このことでかえって尊敬の念を深めたものもいるらしい。
熱い視線も感じるが、それに応える余裕などなかった。

どうすれば阿弥の機嫌が直るだろう。

頭の中にはそれしかなかった。
さすがにやりすぎたと思う。阿弥が怒るのは当然だ。
逆の立場なら喪助だってそうする。


その日一日、阿弥は目を合わせてくれなかった。
授業が終わるとさっさと部活に行ってしまい、声をかける隙も与えない。
自業自得とは言え、ここまで露骨に無視されるとつらい。
部活が終わるのを待っていようかと思ったが、今日は無理だとあきらめた。
しばらく冷却期間を置くべきだろう。

しかし、次の日も、その次の日も阿弥は顔を合わせてくれなかった。


喪助は渡り廊下の窓から体育館を眺めていた。
ちいさく剣道部の部員たちが見える。
阿弥はいつにもまして力強く竹刀を振っているようだ。
喪助はため息をついた。
もう一週間も、阿弥と口をきいていない。
禁断症状が起こりそうだ。


「どうシました、喪助くン」
ここでは珍しい男の声で呼ばれて振り返る。
背後に見覚えのある顔があった。
「元気がないデスね。カルシウム不足でスか」

この春、校医になったばかりのファウストである。
女子校勤務には危険なほどのナイスルッキングだが、
本人はあやしげな日本語を使う、いたって気さくな好青年だ。

「先生には無縁な話だよ」
「オヤ、聞き捨てなりませんネ」
「だって、先生、女に興味ないだろ」

年に一度の健康診断のとき。
これまでの校医は喪助の胸に明らかな関心を示した。
しかし、ファウストは違った。
だから気に入っているのだ。
基本的に男に興味がない喪助だが、ファウストは見掛けによらず話しやすいと思っていた。

ファウストは、チチチ、と顔の前で指を振った。
「ノンノン。甘いですヨ。ボクだって奥さんがいまス」
喪助は素直に驚いた。
「君の悩みは女のヒトのことですネ」
「そうだよ。あ、でも先生キリスト教徒じゃ」
「偏見はありマセん。どんなかたちでモ愛は尊イ」
ファウストはにっこり笑った。
「話して御覧なさい、喪助くン」
喪助はこの変わった医者になにか通じ合うものを感じた。


かすかに薬品の匂いの漂う、壁もカーテンも白一色。
いかにも保健室といった殺風景な部屋。
そこがファウストの職場である。

喪助は初めてカーテンの奥、準備室に案内された。
部屋の中央に置かれた十字架に架けられたイエス像が見守るそこは、
生徒が悩みを打ち明ける場所である。
シャーマン学院に今のところ不登校の生徒が出ていないのは、
彼のカウンセリングが一役買っているという噂は喪助も耳にしている。

ファウストはお茶を出して喪助を促した。
喪助はそれをすすりながら、恥ずかしげもなく先日の一件を語って聞かせた。


「それは君がいけませんね」
聞き終わると、真剣な顔でファウストは言った。

なぜか言葉が流暢になっている。

「そんなことはわかってるよ」
喪助はふくれ面をする。
「それでは、彼女がおもちゃにされていると考えて当然です。
君だけが主導権を握っているのはたいへん良くない」
「オレが強制してるようなもんなんだよ」
「彼女だって君が好きなんでしょう」

うん、嫌いではないはずだ。
嫌いならあんなことはさせない。

「相手の意見を聞くこと。君もちゃんと話しなさい」

冗談めかした告白はしたものの、
喪助が阿弥に真面目にななにか話したことが一度でもあるだろうか。
たとえばリゼルグにするような本の話、
ピリカにするような馬鹿話でさえ、阿弥とはした覚えがない。
いつも喪助が一方的にちょっかいをかけてからだに触れるだけだ。

恋人と言いながら対等なパートナーとは見なしていなかった。
確かに阿弥をおもちゃにしていた。

「恋人同士はヒフテイヒフテイでないといけません。すべてにおいてね」
ファウストはにっこり笑った。
花が咲くような、と形容するのにふさわしい笑顔。
男なのにほんとうに綺麗な顔をしている。

「大丈夫、君も好きで、彼女も好きならばきっとうまくいきますよ」
いい加減なことを言っているようには見えない。
喪助は素直にうなづいた。

「わかったよ。とにかく謝って話し合う」
「それがいいでス」

ファウストはいつもの口調に戻った。

立ちあがったとき。
ふと、ファウストの背中に隠れていたポートレートが目に入った。

ファウストと同じ、金髪に碧眼の可憐な少女。

「この人が先生の奥さんなの」
夭折した姉妹かと思ったが、一応そう聞いてみる。
「そうデスよ」
ファウストはにこにこした。
「美人だね」
「そうデスとも」
そこにいるのはどう見ても喪助と同じ年くらいの少女だ。
喪助はそれ以上聞かなかった。

「聞いてくれてありがとう」
「どういたしましテ。またいつでもどうゾ」


これで解決するかどうかはわからない。
でも、少くなくとも気は楽になった。
こんな話は友人にはできなかったから。
ありのままを受け入れてくれる人がいたことはうれしかった。

うまく収まったら礼を言いに行こう。
喪助はそう決めた。


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