3

あいつのせいだ。
オレがこんなになっちまったのは。
こんなからだはオレじゃない。

思い出すたびに腹が立つ。

あいつは好きだ。
あいつにちょっかいかけられるのはうれしい。
あいつにキスされるのもうれしい。
でも、あんなのはいやだ。

喪助は今日一日中、なにか言いたそうに阿弥の様子を伺っていた。
阿弥は無視した。
口をきく気にはなれない。

授業が終わるとさっさと部活の支度をして体育館に向かう。
喪助は先に帰ったらしい。
追いかけてくるだろうと思っていたのに。
ますます腹が立った。

もう、絶対許してやらない。


まるでだめだ。
いつもなら、竹刀を持つと精神がここちよく高まって
自分と相手の動きだけに集中できる。
でも、今日はだめだった。
頭の中がもやもやしている。
ちっとも集中できない。

阿弥はコーチに呼ばれた。
「調子悪いな。少し休んだほうがいいぞ」
鬼の異名をとるコーチが、がらにもなくやさしい声を出す。
阿弥が大事な選手だからだろう。
ほかの部員にはこんなことは言わない。
それも、阿弥の気に入らない。
「平気です」
阿弥はつっぱねて練習に戻った。

阿弥が相手をしている一年生はおびえていた。
「今日、すごく怖いです」
「遠慮しないで打ちこめ」
「できません」

オレは最低だ。後輩にあたっている。

どんなに夢中になりたくてももやもやは消えなかった。

阿弥はその日から、いつにもまして練習に打ちこむようになった。


毎日早朝から深夜までトレーニングに努めた。
自分の体力を考えない、無茶な行為だった。

わかっている。
それでも、体を動かさないではいられなかった。
じっとしているのが怖い。

あいつのことを思い出すのが怖い。

こうなることはわかっていた。
3週間目の朝礼の時間、ついに限界がやってきた。
阿弥は教室で意識をなくした。


気がつくと固いベッドの上だった。
阿弥は首を動かして周囲を見まわす。
保健室のようだ。
そして、枕許には神妙な顔の喪助がいる。
阿弥はとっさに顔をそむけた。

「目が覚めまシたカ」
カーテンが開き、金髪の先生のにこにこ顔が覗いた。
「だめですヨ、君みたいなかわいいお嬢さんが過労なんテ。
練習も良いですケド、自分の体を大切にしなくちゃいけまセン」
それだけ言って、ファウスト先生はカーテンを閉めた。

二人きりになる。
阿弥は喪助に背を向けたままだ。

やがて、喪助が低い声で言った。
「今度はほんとにオレが悪かった」
阿弥は応えない。
「でも、言わせてくれ。無茶はやめろ」
少しは心配しているようだ。
阿弥はようやく口を開いた。
「オレのからだだ。どうしようと勝手だ」
自分でも驚くほど、声が震えていた。
からだが震える。
今まで押さえていた感情がこみ上げてくる。


お前はいい。
オレをこんなにしたくせに、
オレだけはずかしめて平気な顔をしている。

お前に触れられてだらしなく緩んでしまうこのからだが。
オレは許せないのに。

ずっと感じていた。
はじめてお前に触れられた日から、ベッドに入るたびにからだが疼く。
夜といわず、昼間でもなにかの拍子に腰の奥が熱くなってしまう。
いやだ。ぜったいにいやだ。

だから痛めつけてやったんだ。


「そりゃ、オレにはわからない訓練とかあるんだろうけど。
からだに傷つける必要がどこにあるよ」
「お前はいい。いつもオレだけ辱めてんだから」
吐き捨てるように言った。
「オレのからだなんか、なくなっちまえばいいんだ」

「ああ、お前」
横目でちらりと見た喪助は真剣な顔をしていた。
「オレにああされるのがいやなのか。だからそんなことしてんのか」
「そうだよ」
「じゃあ、もうしない」
耳を疑った。
「お前が傷つくとこなんか見たくない」
阿弥は言葉が出なかった。

「ごめん、阿弥。
今までのこと、ほんとうに謝る。
オレは本当にお前が好きだ」

「でも、お前を弄んだだけだった。
悪いのは全部オレだ」

「謝ってどうなるもんじゃないけど、お前がいやなら忘れてくれ」

忘れろだと。

お前は、そんなにあっさりとオレを捨てるのか。
あんなにしつこく言い寄ってきたくせに。
「オレが幸せにする」って言ったのに。

オレは、なにを考えているんだ。
それがオレの望みだったじゃないか。

「待て」
喪助は振り向いた。
「いやじゃない」

お前にちょっかいかけられるのはうれしい。

「いやなのはオレのからだだ。
お前に触れられてだらしなくゆるんでしまうみだらな」
恥ずかしくて顔が見られない。
「だから、あんなこと無しでなら」
喪助はもう聞いていなかった。
「お前、なに言ってんだ」
あきれたような口調。
このほうが喪助らしい。
「ああなるのは自然なんだって。むしろ、なってもらわないと困る」

なにが困るのかわからない。
どうせろくなことではないだろう。

阿弥は口を尖らせる。
「オレはいやなんだよ」
「お前はストイックだからな。そんなところがかわいいんだけどな」
「ばか、なに言ってんだ」
「よしよし」
喪助が頭を撫でる。

ああ、わかった。
オレは、お前に心配して欲しかったんだ。


「阿弥」
喪助の腕が阿弥を抱く。
こうされるとここちよい。

「ごめんな」
「いいよ、もう」

やっぱり、オレはこいつが好きだ。



4

ふたりは残りの授業をサボることにした。

「先生、オレ、しばらくこいつについてるから」
いけしゃあしゃあと喪助が言うと、ファウスト先生はにっこり笑った。
「そうですネ。後は任せまス」
そう言い残して、喪助に鍵を渡して出ていった。

二人の「ツー、カー」な様子に阿弥は驚いた。
喪助は先生まで味方にしているのだ。
おそろしいやつである。

喪助はさっそく鍵を閉める。
そしていたずらっ子のように笑う。
「入っていいか」
阿弥はお尻をずらして喪助の分のスペースを空ける。

二人でシーツを被った。
抱き合ってキスをする。

耳元で喪助が囁く。
「服、脱いじまおうか」
「バカ、ここをどこだと思ってんだ」
「カーテン閉めてりゃ外からは見えないよ」
喪助はにんまりと笑う。
阿弥も、ほんのすこしだけそうしたい気分になっていた。


さっき、喪助が言った。
「これからはヒフティヒフティにしよう」
突然の切り出されて阿弥は驚いた。
「いやならいやだと言ってくれ。お前がいやならしない」
当たり前のことのようだが。
「せっかく恋人になったんだもんな。何でも話し合おう」
うれしかった。
阿弥は大きくうなづいた。

「さっそくだけど、今はいやか」
「いやじゃない」

喪助は悪戯っぽく笑う。阿弥も笑った。

「むしろ、したい」


喪助が阿弥の服を脱がす。
阿弥は喪助の制服のボタンをはずした。

黒のブラジャーで覆われた大きな胸があらわれる。
フロントホックだったのではずすのは楽だった。


オレとは全然違う、喪助の胸。
これぞ女の胸ってかんじだ。


制服を腕から抜き取る。
そしてスカートも引き下ろした。

お互い、最後の一枚だけは残してベッドに横たわる。
「寒くないか」
「お前こそ」
「オレは鍛えてるから平気だ」

喪助はかっこうがいい。
雑誌に載っているヌード写真のようだ。
横になっても突き出した胸。くびれた腰。長い手足。

お前は、オレが綺麗だなんて言ってくれるけど。
お前のほうがずっと綺麗じゃないか。

阿弥は喪助の胸をつかんだ。
手のひらにあまる肉を押し上げてゆっくりと揉む。
弾力があってやわらかい。触りごこちがいい。
思い切り顔を当てて甘酸っぱい汗の匂いを吸い込む。
口をつけてつんと尖っている乳首を舐めた。
含み、飴をしゃぶるように舌で転がす。

阿弥はこうされると下半身がむずむずする。
喪助はどうだろうか。

精一杯上手く舐めているつもりなのに反応がない。
悔しかったので強めに噛んだ。
喪助が頭を撫でる。
「上手だぞ」
その余裕が憎らしい。
阿弥は顔を上げて睨みつけた。
「いいなら、いいって言えよ」
目が合うと、喪助は顔をそむけた。
その頬は少し赤いようだ。
「ひょっとして恥ずかしいのか」
「うるさい」
ぶっきらぼうに答える。
「オレがよがったらみっともないだろ」
けっこうかわいい。
阿弥は笑ってしまった。

「じゃ、次はオレの番な」
えっと思う暇もなく押し倒された。
「ちょっと待て」
口をとがらせて抗議する。
「ヒフティヒフティなんだろ」
「んでも、お前、こっから先は下手そうだし」
「勝手に決めるな」
「今日はオレがお手本見せてやるよ」

どうやらまだ心の準備ができていないらしい。
阿弥はにやりとした。

いいとも。今日は譲ってやる。
でも、いつか必ずあせらせてやる。
覚悟しておけ。


喪助はやさしかった。
ついばむようなキスを繰り返す。
頭がぼうっとなってくる。

喪助は肌のほんのちょっと上、ぎりぎりのところを撫でている。
肌が近づく気配だけでもくすぐったい。
「あ」
時々、そっと触れられると全身に電流が走るようだった。
指先を優しく触れたまま、わき腹から背骨に進む。
「んん…」
ちいさな虫が全身を這っているようで、気持ち悪いのだけど。
そのぞくぞくが次第に興奮に変わっていく。

指が脚の間に入ってきたときも、自然に受け入れていた。

ゆっくりと指が行き来する。
今日はいやらしいことは言わない。

この間お尻にされたときには、
全然気持ち良くなんかないのにからだが興奮してしまった。

すごくいやらしいからだだと思われただろう。
いやでたまらなかった。
いやなときは、こうされるのが辛い。
でも、今はうれしい。
そのときによって感じ方が全然違う。

圧しながら擦る。途端に腰が震え出す。
なにか、妙な衝撃に駆られて叫びたくなってしまう。
どうしたいのか、どうされたいのかわからない。
軽くノックされると、あっという間に果ててしまった。
「阿弥」
また抱きしめられる。
阿弥も腕を絡ませた。
「指、入れていいか」
阿弥は顔を上げる。
喪助は笑った。
「こっちに、だよ」
もうとろとろになっているに違いない、前の入り口に触れる。
「もうお前のいやなことなんかしないよ」
そう言って、指を二本、阿弥の中に沈める。

喪助が中で指を開いたのがわかる。
そして出し入れを開始した。
最初はゆっくりと、阿弥が慣れてくるとすこしづつ速く。
阿弥の中のすべてがグリグリと刺激されている。
腰から力が抜けていき、喪助にしがみつく。
「気持ちいいんだな」
阿弥はうなづく。
「すごくかわいい」

喪助は一度指を抜いた。
長い指には透明な液が絡まり、たくさん糸を引いている。
阿弥は目をそらした。
顔が火照る。

「オレは、お前にうんと気持ち良くなってほしいよ」
「喪助」
「ちょっと無茶するけど、許してくれな」

なにをされるのだろう。
もう不安にはならなかった。

喪助がひどいことなんかするはずない。

阿弥は目を閉じて待った。

再び、指が入ってきた。
一本、また一本。
「喪助」
さらに残りの指が二本。
親指を除いて喪助の指がすべて阿弥の中に納まった。
くうう、と喉が鳴った。
いっぱいいっぱいに開かれている。
お腹に重圧がかかっている。
でも、不思議にいやではなかった。

なんだか、喪助のすべてを受け入れているような気がした。

四本の指が、奥までめり込んでいく。
最奥でギュッと圧迫し、ゆっくりと抜く。
そして、再び入っていく。
喪助は阿弥をいたわるようにゆっくりと、ピストン運動を繰り返した。

「痛いか」

耳元でここちよい喪助の声がする。
「痛いならそう言えよ。いやならやめるから。正直に言えよ」

その声を聞いたとき、阿弥は涙が出た。

なんでこんなにやさしいんだろう。

圧迫されている奥に、暖かいものが生まれる。
それはじわじわとからだ中に広がって、やがて大きな満足感になる。

「喪助」
阿弥は喪助にしがみついた。
「うん」
「すごくいい」
入り口は引きつって痛いけど、幸福感のほうが大きかった。
「お前に抱かれてるって気がする」
「そうか」
喪助はうれしそうに笑った。
「安心した。お前がいやじゃなくて」

こいつはなにを言ってるのだろう。
いつも自信満々のこいつが。

「今言ったばかりだ。イヤならイヤって言うって」
そう言ってやると、喪助はすっかり満足したようだった。
「うん。そうか、そうか」
ひとりで悦に入っている。
やっぱりへんなやつ。
そんなに嫌われることを恐れていたのだと思うと顔がほころびそうになるけれど。


結局この行為ではいけなかったので、いったんやめることにした。
指を引きぬく。
抜かれるときは少しヒリヒリした。

喪助の右手は、阿弥が想像していた通りひどい状態になっていた。
指だけでなく手首までべとべとになっている。
見ないで欲しいのに、喪助はまじまじと凝視している。
「いっぱい出たよな」
またこんなことを言う。
阿弥は口を尖らせる。
「お前がしたんじゃないか」
「ああ、もちろん」
意外にあっさりとした返事だった。

いたずらっぽい表情。
喪助はオレの手を取った、

「オレだって似たようなもんだからな」
喪助は阿弥の手を自分の下着の中に導いた。

胸には冗談っぽく触ることはあったが、そこは一度も触れたことがない。
阿弥は初めて触れる他人のものに戸惑った。

そこはひたひたに湿っていた。
「な、お前と同じだろ」

喪助が自分と同じからだをもっていることが、なんとなく意外だ。

でも、当たり前、だよな。

指が滑って少し中に入った。
「もっと入れていいぜ」
阿弥はあわてて手を引く。

よがらせるなんて決意したくせに、いざとなると情けない。
やっぱり、下手かもしれない。

「わかったろ。みんなこうなんの」
よくわかった。

顔を見合わせて、なんとなく笑う。
もう恥ずかしくなかった。


おしまい



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