翌日、阿弥は再び自分がすると宣言した。

「またする気か」
喪助は余裕綽々といった様子だ。
阿弥はほくそえむ。

そうしていられるのも今のうちだ。
今日のオレは一味違うぞ。


座った姿勢で向き合う。
まずはキス。
頬に。額に。まぶたに。

喪助はあんまりキスをしてくれない。
いつも物足りなく思っていた。

その腹いせのようにキスを繰り返す。

首筋にもキスしながら、手はソフトに胸へ。

やわらかく揉む。

しつこく揉んでいるとリラックスしてきたようだ。
喪助の体から力が抜けてきた。

右手をお腹の下のほうに這わせた。

さて、ここからが正念場だ。

左手は胸に置いたまま、右手のみで愛撫を開始する。

中指で中を探り、人差し指は入り口をまさぐる。
そして親指は棘に当てる。
残りの指で周辺をくすぐるのも忘れない。

「お、お前」
喪助の慌てぶりがうれしい。

「それ、三箇所責めじゃないか」
「ふふん。見なおしたか」

乳首をひねる。

「オレだって、やるときはやるんだよ」

舌を伸ばして耳の後ろを舐める。
喪助はびくんと震えた。

調子に乗って首筋にも舌を這わせてみる。

肩が震えている。

意外に感じやすいじゃないか。
これはおもしろい。

その間も指を動かしつづけている。

ほどなく、触れているところがしっとりと湿り出した。

「もういっちゃえよ」

喪助は首を振る。
手はシーツをしっかり握っている。

「我慢は体に毒だぞ」

なおも首を振る。

「いくとこ、見られたくないのか。オレのはさんざん見たくせに」

阿弥は指を離した。

「お仕置きしてやる」


蓮から貰った例のものを喪助がどこに隠したか。
阿弥はしっかり確認していた。


机の一番下の引出しを開ける。
かわいい小箱の中に発見。

「せっかく貰ったんだもんな」

握ってみると手ごろなサイズである。
ちょうど指二本分くらいの太さ。これなら無理はない。
蓮が気を効かせてくれたのだろうか。そんなはずはないか。

スイッチを入れてみる。
わずかな電気音がして、全体が小刻みに振動する。

「ここで、回転だな」

別のボタンを押すと、先端が回る。

「そんでもって、ここが伸び縮み」

明らかなピストン運動。

みるみる、喪助の顔が引きつってきた。

阿弥はにやにやする。
わざと見せつけているのだから、反応してくれないと困るのだ。

「本気か」
「当然だ」


まずは弱い振動で胸を攻める。

乳輪をゆっくりなぞり、すぐに離す。
そして胸の膨らみを這わせる。

その繰り返し。決して強く当てたりしない。

次第に喪助の唇がうっすら開いてくる。
あごが浮く。

そこではじめて乳首に押しつける。

ぴくん、と肩がはねた。

両方の乳首を変わりばんこに攻める。

形のいい乳首がぷっくり膨らんでいる。
効いているらしい。

なのに、喪助は表情を崩さないようにしている。

そんなに強情だから、ますますいじめたくなってくる。

「じゃ、次こっちな」

しっかり閉じていた膝を割ろうとする。
喪助は拒んだ。

「なんだよ。今更だろ」

強引に膝を割った。

喪助の長い脚がM字型に開かれた。

喪助は顔をそむけた。
電気を消していても、これはあまりにひどい格好だ。

阿弥はスイッチを中にした。

くねくねと動く先端が喪助のシークレットゾーンへ向けられた。

触れるか触れないかのところをゆっくりと行き来する。

棘をかすめたらしい。
喪助の脚が伸びてつま先がそった。

先端を真ん中に押し当て、ほんの少しだけ沈めた。

喪助の腰が浮く。
体がこわばっている。

この態勢では入りそうにもない。


膝をつかせ、お尻を上げて四つんばいの姿勢を取らせる。

健康的な肉付きの良いお尻が目の前にくる。
阿弥はそれを両手でつかんで強く揉んだ。

「この間のお返しだ」
「お前、まさか」

「大丈夫。入れるのはこっちにするから」

そう言って、後ろから押し込んだ。

「やっ」
ズブリと、先端が飲み込まれた。

さらにもう少しだけ差し込んでみる。

「くうう」
喪助がお尻を引いた。
お腹の筋肉が引きつっている。

阿弥は非情にも抜き刺しを開始した。
浅く。あくまでも浅く。小刻みに動かす。

喪助の息遣いが荒い。

出入りする動きが滑らかになってきている。

「良くなってきたか」

喪助は首を振る。

「もっと入れるぞ」

お尻をしっかり支えて半分くらいまで挿入する。
それでお腹側の壁をまんべんなく擦ってやる。

喪助のお尻が震え始めた。

声は出ない。我慢しているらしい。

そうだよな。こんな恥ずかしい態勢じゃあ。

阿弥は手を伸ばして、胸をつかんだ。
じっくりと揉む。

「お前のこれ、ほんとに気持ちいいな」

やわらかく囁く。

「ふかふかしてる」
「ん、ん」

苦しそうなうめき声。

でも、苦しいんじゃない。
女同士だからな。
よくわかる。

「奥まで入れるぞ」

力を入れる必要はなかった。
根元まで難なく入っていった。

子宮に当たるとか言うけど、あれは嘘なんだな。
ここには底がない。深く深く飲み込んでしまう。

しばらく動かさずに様子を見る。

「なあ、気持ちいいか」

やっぱり、返事はない。

ゆっくり抜き差しする。

綺麗なラインの肩が小刻みに震えている。

阿弥はすこしやさしくたずねた。
「なあ、どんな感じなんだよ」

「お腹が」

ようやく、喪助の声を聞いた。

「お腹が熱い」

「気持ちいいってことか」
「わからない」
「やめてほしいか」

返事は聞かなくてもわかっている。

「やめなくていい」
「してくれ、だろ」


いったん抜いてしまう。

大きく息をしている喪助を仰向けにする。

濡れた先端で花弁を撫でる。
そして、今度は惜しみなく棘に押し当てて刺激してやった。

「あ、あ」
喪助は小さな高い声をあげて痙攣した。

奥ゆかしい声だ。
なんか可愛い。


「もういったから中には要らないか」
「お前、すっげえ意地悪だな」
「誰のお仕込みだよ」

意地悪はこれくらいにしておこう。
オレだって早く、お前のかわいいところが見たい。


先ほどと同じ姿勢で差し込んでやる。

なんだかわくわくする。
喪助が感じてる。


「あとで覚えてろよ」
搾り出すように喪助が言った。

「なにを覚えてろって。お前のこの格好か」

大きく円を描く。

喪助は喘いだ。

からだの中で大きな波が起こっているらしい。

「ここ、ここだな」
スイッチを強にした。

そこを中心に激しくピストンさせる。

ほどなく喪助のからだが硬直した。
ぶるぶると大きく震えてから、シーツに突っ伏する。

完全に脱力している。

阿弥もようやく仕事を終える。
べとべとになっている棒を抜き取ってベッドに転がした。

「かわいかったぞ、お前」
阿弥は喪助に飛び掛ってキスの雨を降らせた。


腕の中で喪助の髪を撫でる。
喪助はふてくされてそっぽを向いている。
顔は見えないが、真っ赤になっているに違いない。
阿弥はにんまりと頬を緩めた。

「おもちゃもバカにできないな」
低い、どすの聞いた声がした。
「次はオレがするからな」
喪助は本気だ。
でも、阿弥はちっとも怖くない。

あんなとこ見ちゃって怖いはずない。

「いやだね。オレは、お前のほうがいい」
喪助の手を取る。
その手で、自分のもう痛いくらいにうずいている個所を撫でる。

「マスターベーションしてんのか、お前」
「違うよ。お前の手だ」
「やってるのはお前だ」

喪助は力を抜いたまま自分で動かそうとしない。
悔しかったが、我慢できなくてそのままやった。
二、三度擦るだけで達した。
すごく興奮していた。

「お前でもオナニーするんだな」
「しないよ、そんなの」
「やったじゃん。オレの前で」
「だから、お前の手だって」
「いいじゃん。しても。オレだってするぜ」

なにを考えてしてるのかな。

そう思うと、また下腹部がうずいてきた。

ベッドサイドのスタンドをつける。
オレンジ色の光りがベッドを照らした。

喪助の膝の間に体を割り込ませた。
まだ熱を帯びている個所を見つめる。
目に焼き付くほどに。
喪助が顔を伏せて羞恥に耐えているのがわかる。

お風呂でちらりと見えたときは、
そこも喪助らしくきゅっと引き締まっているなあ、と思った。
今は充血して膨らみきっている。
やわらかい花弁を指で開く。
中は驚くほど鮮やかな桜色だった。
溢れてくる蜜が薄い膜のように光っている。
綺麗だった。

オレのも、こんななんだろうか。
あいつの目にはどう映ったのだろうか。

そう考えるとお腹の中まで熱くなる。
オレはいやらしい。

「お前、オレがはじめてか」
「当たり前だ」
「誰にも見せてないな」
「見せねえよ。露出狂じゃあるまいし」
「そうか」

阿弥はそこに顔を寄せた。
口をつけて露を舐め取る。
そうするのが驚くほど自然に感じる。


喪助がこれをしたのは一回きりだ。
阿弥が怒ってさんざん泣いたから。
思えばみっともないことをした。

あのときは、オレを辱めるためにするのだろうと思っていた。
でも、今ならよくわかる。
自分がしたいからするんだ。

こんなことはほかの誰にもさせないはずだ。
そうすることで所有の証を刻みこむ。
いとしいひとの一番恥ずかしいところを自分のものにする。


先ほど見た桜色の口に舌を差し込む。
ゆっくり出し入れする。
喪助のからだが震えた。
耐えきれないような声が漏れた。
「あ…」
その声を聞くと興奮した。
腰を両手でつかみ、夢中で舐める。


「ん、ん…」
もだえながら、喪助がからだを移動させている。
背筋に電流が走った。
一番敏感な部分に喪助の口付けを感じる。
やわらかい舌が分け入ってくる。
ぶるる、と震えた。
快感にさらわれそうになりながら、一生懸命舌を動かす。
しばらく二人で舐め合った。

「どんどん出てくるぞ」
「お前だって」
「ハニーポットって、呼ぶわけわかる、よな」
切れ切れの声を効いた直後に、大きな波が押し寄せてきた。
何も考えられなくなる。
気持ち良く果てた。
喪助もほぼ同時に達したらしい。

二人で抱き合う。
「なに。ハニーポットって」
「ハチミツがいっぱい出てくるとこって意味だな。
スラングだけどぴったりだろ」
「いやらしくなくていいかもな」


同じものが喪助にもついていて、一緒に気持ち良くなれるのなら。
女同士も悪くない、と思った。


「にしても、お前、どこでおぼえてきたんだよ」
「お前の持ってたエロ本」
驚いたらしい。
喪助は口を開けた状態で固まっている。
阿弥は満足した。
「あんなとこに隠すなんて、おっさんたみたいだな、お前」
「リゼルグに見つかったらうるさいからな」
つい、吹き出してしまった。
リゼルグの真っ赤になった顔が目に浮かぶようだ。
「凸凹コンビだよな、お前ら」
「失礼な。巷では頭脳派コンビと呼ばれてんだぞ」
「こんな罰当たりと一緒じゃたいへんだ。かわいそうに」
「まだ言うか」


でも、罰が当たるときは二人一緒だ。
オレははじめてこいつを愛した。
オレがしたいから、そうした。


ふと、枕もとの時計を見る。
「まずい」
慌てて飛び起きて服を掻き寄せた。
「あーあ。もう10時だ」
喪助はのん気にフルスピードで服を着る阿弥を眺めている。
「リゼルグのやつ、怒るだろうなあ」
「ばか。お前もさっさと服着ろ」

お別れのキスもそこそこに、阿弥は部屋を飛び出した。


その晩。

「喪助」
「なんだ、リゼルグ」
「なに、これ」
露骨に軽蔑を込めた目で、床を見ている。
「げっ」
慌てて取り上げて背中に隠したがもう遅い。
「それってまさか」
「電動肩揉み機だよ」
下手ないいわけである。
「どう見ても大人のオモチャだけど」
「やだ、リゼルグちゃんたらエッチ。
そんなことどこで覚えてくるのかな」
ごまかせない。
ますますリゼルグの顔は険しくなる。
「まさか、使用済みじゃないだろうね」
「そんなわけないじゃない。健全な学生が」
「君が健全な学生なら、不健全な学生なんていないよ」

こんな一幕があったらしい。
阿弥は想像するとお腹の皮がよじれそうになる。



文化祭当日。
接客係りの生徒たちは初めて衣装あわせをした。

驚いたことに喪助だけメンズを着ていた。
本人に問いただしてみると、
「サイズがあわなかったから」
とのこと。
ウソに決まっている。
目立ちたいからだ。実に喪助らしい。


名門校として知られているこの学園の文化祭には多くの見物客が訪れる。
この日ばかりは男子禁制なんてこともない。
付近の男子校の生徒たちもこの機会は逃さない。
我先にとなだれ込んでくる。
しかし、この日シャーマン学院の乙女たちの
ハートを捕らえたのは彼らではなかった。

「先輩、かっこいい」
中等部の少女たちが目を潤ませている。

黒いチャイナ服姿の喪助は優雅に微笑む。

「いつもかっこいいけど、今日は、もう」
「ありがとう」

熱い視線をなれきった様子で受け流している。
ホスト役が板についている。

阿弥はそんな喪助を尻目に忙しく給仕に励んでいる。
ときどきちらりと喪助に視線を走らせる。
今日の喪助はたしかに格好いい。
月並みなたとえだけど、宝塚の男役みたいだ。

彼女目当ての下級生だけで店の中は満杯になっている。


「完売」
「ご苦労様」

あっという間に品切れのため、店仕舞いとなった。

後片付けを終えても十分時間が残っている。
阿弥はひとりでゆっくり出し物を見て回った。

テントを張った校庭にずらりと並ぶ食べ物屋。
手作りの造花や小物の店も林立している。
阿弥はそれらには興味がない。
眺めるだけでなにも買わずに通りすぎた。

2時からカラオケ大会があると聞いた。

寄り道しながら体育館に向かう。
その途中。
ふと、人ごみの中に見覚えのある姿を見つけて立ち止まる。

蓮だった。
お姉さんと一緒にいる。

蓮は見たこともないほど穏やかな顔をしている。

あいつにもかわいいところがあるんだな。

阿弥はなんとなく寛大な気分になれた。

視線を感じたらしい。
蓮がこちらを向いた。
そしていきなりこう言った。
「その服、似合うじゃないか」

阿弥はチャイナ姿のままだった。
着替えようしたのだが、そのままが絶対いいとみんなが言うから。

「本当、とっても可愛いわ」
お姉さんはやはり美人だ。
一見冷たく見えるが笑顔は愛らしい。
「ありがとうございます」
阿弥は素直にお礼を言った。
「ふん」
蓮はいつものように尊大な態度で。
柄にもないことを口にした。
「お前、いい顔になったな」
驚いた。
蓮はしげしげと阿弥を見ている。
「以前は張り詰めていた。今はやわらかくなった」

確かに、以前の自分ならお世辞はきらいだと突っぱねていただろう。

「あいつのおかげか」
誰のことかは聞くまでもない。

喪助は相変わらず下級生に囲まれていのだろう。

「まんざら、無益というわけでもないってことか」
阿弥は赤面した。
でも、うなづいた。


「ところで、あれは役に立ったか」
思わぬ問いに返事に詰まる。
「え、なに。なんなの、蓮」
潤が好奇心を剥き出しにする。
「なんなら、ほかにもあるぞ。媚薬とか、拘束具とか」
「いらないよ、ばか」
「遠慮するな」
「なんなのよ、蓮。姉さんにも教えて」


おしまい


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