3
オレは男に生まれたかったと思ったことはない。
公平に言って、女だから損をしたことはなかったと思う。
ちょっと前ならオレみたいなやつは、女のくせに生意気だとか絶対言われたんだろうけど。
オレはわりと好意的に受け入れてもらえたと思う。
周りの子より早く女になっていくからだにもべつに違和感はなかった。
男どもがオレのからだに触りたがるのはあいつらが悪いんだ。
オレが悪いんじゃない。
このからだに罪はない。
愛せないより愛せるほうがいいに決まっている。
繁殖しないよりするほうがいいに決まっている。
だから、オレはだめな人間だ。
母さんは。
母さんは男を愛せるひとなんだ。
だから、オレが生まれたんだし。
あのひとは、オレより男のほうが大事なんだ。
そんなことを考えてはいけない。
オレは母さんが好きだ。
しっかりしていてやさしくて年よりうんと若く見える母さんに。
文句を言ったら罰が当たる。
なんで、オレを守ってくれない。
オレの気持ちより、男を繋ぎとめるほうが大事なのか。
オレがなにをされても黙って見ているのか。
とっくに済んだことなのに。
あんなこと、たいしたことじゃない。
電車で痴漢にあったようなものだ。
深刻な心理的外傷になんかなっていない。
好きなのに。こんなに好きなのに。
愛しているのに。
オレは母さんを憎んでいる。
オレは一生男を愛することはない。
オレはひとに偉そうにされるのがきらいだ。
生まれてこの方、いちども男のほうが偉いと思ったことなんてない。
なんであんなやつらに威張られなきゃならんのかと心底思う。
単純にそれだけだ。
母さんのせいじゃない。
中学からオレは女子校の寮に入ることにした。
そこでオレはもてた。
下級生ばかりでなく、同級生からまでお姉さまと慕われた.
女子校には独特の価値観があるのだろう。
オレは彼女たちをうまく扱った。
ひとに好かれるのはうれしい。
男に好かれるのはごめんだが、女ならいい。
そして、あいつに出会った。
オレはどうしてあいつを好きなんだろう。
どんなにかわいい子を見ても興味は持てなかったのに。
あいつは一目で違うとわかった。
あの美貌も、しなやかなからだも、負けん気の強さもオレのためにあると感じた。
なんでだろう。
あいつのからだはいい匂いがする。
はじめて素肌に触れたとき思った。
ほかの女の匂いとは違う。
ふんわり、甘いいい匂い。
オレにそう思わせるために発しているような気がした。
抱きしめると腕にぴったり合うサイズで。
これはオレの腕の中におさまるべきからだだと思った。
はじめてなのに、からだを愛撫することにまるで抵抗がなかった。
アレを舐めたりしたのも。
調子に乗っていたせいもあるけども、自然にしてしまっていた。
これもオレを待っていたような気がして。
へんな話だけど、美味しかった。
どこもかしこもオレ仕様にできていると思った。
こんなにかわいいと思えるやつはいない。
オレはあいつに母さんを重ねているのか。
オレは同性愛者ではない。
ならば、この感情はどこからくるんだ。
いろいろ本を読んで、いくらでも説明はつけられるとわかったけど。
あいつがどうでもいいと言ってくれなら、オレも考えないことにしよう。
お前が誰より大事なのはたしかだ。
こんな話は誰にもしないつもりだった。
泣き言を言うのはいやだし、聞くほうもいやな気分になるだろう。
でも、あいつが聞きたがるから全部話した。
あいつは泣いていた。
我慢しているつもりだろうけど、オレにはわかる。
だから、聞くんじゃないって言ったのに。
泣いた顔もかわいいけど。
今ではもう、お前を泣かせたいなんて思わない。
笑った顔だけ見たい。
|